めいん

□偽善者
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彼は息をするように嘘をつく。

その境目は、本人すらも気付かぬ様曖昧で。

彼の日常生活に余りにも溶け込んでいた。


そんな彼の隣にいる僕は彼の言葉を借りれば馬鹿正直。

嘘をついてもすぐに顔に出て、ばれてしまう。

汚い心は持っていても、隠す程の技量は無い。

そんな所。


嘘というものは決して悪いものではない、と僕は認識している。

千の真実よりも一つの嘘。

そんな言葉があるように、嘘一つで救われる事もあるのだ。

残酷な真実より、甘い嘘。

彼はきっと知っている。

稚拙な真実が、人をどこまでも傷つけると。


そして彼は分かっている。

嘘とはどこまでも都合が良いという事を。


例えば、彼に彼の幼馴染が告白するとしよう。

彼はきっと、彼女の言葉を否定し拒絶する。

間違いだ、なんてもっともらしい言葉で見ないふりをするだろう。

たとえ、彼が彼女の事を思っていたとしても。

それが正しいのだと、彼は心から信じている。

その気持ちは偽りなのだと、彼は確信している。


全て彼女の為の嘘。

自分の気持ちに蓋をして。


だから僕は、そんな彼の気持ちに焦れる。

どうにかしてあげたいと、思ってしまうんだ。

それが如何に余計なお世話なのかも知っているけど。



「どうして?」

僕の小さな呟きを、彼は聞き逃さない。

けれど、返事はせずに眉を寄せるだけ。

返事を期待した問いでは無い事に気づいているのかも。

そう、これは小さな自問自答。


『なんで、どうして?』

もう一度、僕は自分に尋ねる。


二人の幸せを願っているはずなのに。

二人が幸せになった未来を思うと。

どうして、こんなに心が辛いのだろう。

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