めいん

□オチル、ツモル、トケル
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真っ白な雪の上に、足跡を付けるのが好きだった。

自分の軌跡が、大地に刻まれるのに安心をした。

雪の白さは、静寂を強調する様に凛と冷たい。


俺にとって、積雪は1人で味わうものだった。


だから、今日もわざと人通りの少ない時間を選んだのだ。


そんな配慮も、とある1人により粉砕される。



「あ、おはよう雄二」


後ろから声を掛けられ、ゆっくりと振り返る。

いつもより1時間早い通学に、知り合いなど居ないと践んでいたのだが。

聞き慣れた声に、ゆっくりと振り返る。


「お前がこんな時間に通学なんて珍しいじゃねえか」


雄二もね、と言いたげな瞳で見つめ返すのは俺の悪友兼恋人。

雪に滑らぬよう足取りを確かめながら、傍に寄ってくる。

この急な坂道は、雪のせいで余計に危険になっていた。

それでも、悪い気はしないのが不思議だ。


決して平坦で無い道に、一歩一歩と足跡が付いていく。

視線を上げれば、未だ純潔に保たれた白。

ゲレンデの様に、目線の先に光が反射する。


気温は肌寒く、雪のせいか足の先の感覚も鈍くなってきた。

手袋などしていない手は、赤く色付いて。

息は白く天に昇って行く。


隣の恋人は、いつもに比べ酷く静かだ。

こいつに空気を読むと言う機能が付いているのに初めて気付いた。

俺と同じで、唯見とれているだけなのかも知れないが。




それ程にまで、この風景は幻想的だった。




灰色の空から落ちる、光の粒子。

冷たい光の胞子が、俺達の前へ降りてくる。


舞う結晶を眼で追う様に穹を仰ぐ。

隣人が口を開く。

噛締める様に、けれど独り言の様に優しく。


「空が、落ちてくるみたいだね」


意味不明な台詞も、何故か納得してしまう。

確かにそうだと共感する自分を嘲笑う。

そしてそれに被せるように、俺も言葉を解き放つ。


「雲が、積っているみたいだな」


一瞬驚いた顔をして、直に笑顔へと移行する。

そうだね、と耳を打つ台詞は、やけに暖かい。


もう少しで、目的地に着く。


積雪は一人で楽しむものだと言ったのは誰だ。

今では二人も満更でもないと思っていたり。

いや、それ以上に離れたくないと考えてる愚かな自分。


全てを、雪に隠して溶かしてしまえ。

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