めいん2

□アイロニー
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帰り道の川沿いに曼珠沙華が咲き乱れていた。
もう、そんな時期に成るんだなぁと思わず足を止める。
一面に染まる赤い色。
それはどちらかと言うと朱に近い。

僕は赤い色が好きだ。
だけれど、この色は少し違う。
もっと、気高くて鮮やかな。

そう、今目の前に現れた男みたいな・・・。

「明久、なにやってるんだ」

「うわぁ!!って、なんだ雄二か・・・」

「なんだってなんだよ」

苦笑いのような複雑な笑みを浮かべ、雄二は隣を陣取る。
僕はどこか気恥ずかしくて、曼珠沙華に再び目をやる。

「ただ、もう曼珠沙華が咲く時期なんだなぁーってさ」

「あぁ、彼岸花か・・・」

その声のトーンが、いつもより低く聞こえて、僕は思わず彼を盗み見る。
目を細め花を見つめる姿が、どこか儚く見えた。
こんな自分より大きな男に儚いなんて形容詞可笑しいかも知れないけれど。
ボキャブラリーの少ない僕には、それ以外の表現が見つからない。

「どうかしたの?」

思わず声を掛けたのは放って置いたらどこかへ行ってしまいそうだったから。
僕が異変に気づいたのが意外だったのか、雄二は目を丸くする。

「ただ・・・、ちょっとな・・・」

珍しく歯切れの悪い言い分に、疑問符を浮かべる。
どうせ聴いたところで答えてはくれないのだろう。
分かりきったことだ。
雄二はいつも、大切なことを僕には教えてはくれないのだから。

けれど、意外にも雄二は小さく言葉を続けた。

「・・・情熱、哀しい思い出、独立、再会、あきらめ」

「それって、花言葉?」

「・・・あぁ」

「ふーん、雄二って花詳しいんだ」

「・・・一般常識としてな」

それが何に繋がるのか。
彼がどうして悲しそうに笑うのか。
結局のところ知り得ない。

「まぁ、お前には関係ないことだ」

いつもの強気の笑顔に戻り、雄二は吐き出す。
誤魔化すように、払拭するように。

いつだって。
彼は笑顔で僕を突き放すんだ。
あまりにも綺麗に僕の心を切り裂く。
残酷で、優しい人。

「雄二って、本当にいい性格してるよね」

言葉って言うのは、何でこんなに簡単に紡げるものなのだろうか。
ぽろり、と零す声に後悔しか浮かばない。

どうしてかな、歪む彼の顔を見たかった訳じゃないのに。

「お前は、本当に頭が良いよな」

「え、ありがと」

「ばーか。皮肉に決まってんだろ」

そんな会話を繰り返して、僕らは帰路へと戻る。
夕日が沈みかける世界で、行き場の無い思いと共に。


アイロニー:皮肉

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