めいん2

□アイデンティティー
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大切な人は今も昔も一人しかいない。
その思いを彼は勘違いなんて嘯くけれど。
私は、誰よりも自分の心を分かっている積もりでいる。

「翔子、と、とりあえずそれしまえよ、な?」

私の手に握られたスタンガンを確認した雄二は青ざめて声を上げた。

「浮気は、許さない」

「ぎゃあああああああ!!」

閃光が瞬く。
崩れ落ちる赤い彼。
これが、私達のいつもだから。

浮気、何て本当はしていないことぐらい理解している。
そんな低脳な事をする人を私は好きにならない。
それでも、この武力行使を行うのは。
彼の目の下にくっきりと隈が存在していて。
笑った顔に疲れを読み取れたから。

最近彼は、試召戦争の為に勉強を始めたらしい。
らしい、というのは本人から聞いたわけではなく、クラス代表としての情報としてだから。
雄二は自ら私にそれを言うほど素直じゃない。
そこも、可愛い。

雄二は直ぐ無理をする。
他人の疲れや負には敏感なのに、自分に対して厳しい。
優しさが足りない。
だから、私は時々こうやって強制的な睡眠を取らせている。

いい迷惑な事は重重理解しているけれど、自己満足。

私の思いは、執着に程近い。
雄二はそれをあの日からだと思っているけれど。
本当は違う。
きっと、出会ったその時から私は彼に依存していた。

あの日は歯車が回りだした日だ。

他人の存在意義が崩壊する音を、私はその日初めて聴いた。
彼に残ったのは虚無感と、罪悪。
生きてきた軌跡さえも否定するほどの衝撃。
そしてその切っ掛けを作ったのは紛れも無い私。

隣で眠る彼の髪を撫でながら、深いため息をついた。

私の存在は、彼にとって重荷でしかない。
理解はしていた。
それでもこの手を離せないのは。
彼を傷付けてまで縛り付ける理由は。
それが私の存在理由だからなんだろう。

アイデンティティー:存在理由。

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