めいん2

□直線は黒
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手を繋いだ冷たさに、思わず眉をひそめた。
折れてしまいそうな白く細い指は、何を伝えようと俺の手を掴んだのか。
長い黒髪が風に揺れて、特有の香りを運ぶ。
意思の強い彼女の瞳に写り込んだ自身と眼が合う。
見つめ合うと謂う表現が近いか。
品定めを受けているような居心地の悪さにも似ている。
真っ直ぐと向けられる視線は、手を掴んだ意味を語ってはくれない。

そんな状況に耐えきれなくなって、俺は思わず聲を掛ける。

「翔子、どうかしたか?」

「何でもない…」

そう返されると何も出来ない。
手を振り払うにも、この手を離して貰うほどの理由なんてない。
だから、また眉を寄せて翔子の一動を見守る。

そんな俺の心中を知ってか知らずか、翔子は唯微笑んでいる。
霧島さんの表情は読み取り辛いと、誰かが笑っていたけれど。
確かに、その意味を俺は理解した。
何時もなら、こんなにも分かりやすい人間が他にいるか…と思うほどなのに。
今回は行動の意味も行為の意図も良く分からない。

だから、この状況の打開策など無く。
手を繋いで自分達の世界に浸る痛い男女に成り下がっている。

「…ただ、雄二に触れて居たかっただけ」

幾ばくもなく、耳に入ってきたのはそんな台詞だった。
恥ずかしげも無く言ってのける翔子に、俺は固まる。
直ぐに顔に熱が集中するのが分かった。

翔子が余りにも綺麗な顔でそんなことを謂うから。
見つめ合う視線の奥で真っ直ぐに微笑むから。
直球など慣れちゃいない。
顔を逸らして誤魔化そうにも、手遅れみたいだ。

気恥ずかしさに後押しされて、俺は眼を逸らす。
そして唇に触れる、柔らかいもの。

「なっ…」

触れるだけの軽いキスに、赤みは更に増す。
ふわりと笑う彼女は悪びれることもなく、

「雄二が余りにも可愛かったから」

なんて宣った。

可愛いなんて形容詞を使われたのは何年ぶりか。
キャパシティーを越えた恥は、身体中を駆け巡る。

もういっそ、この目の前の生き物を抱き締めて何も出来ないようにしてやりたい。
けれど、やはり羞恥心と理性が邪魔をするので。

俺は眉を寄せて、冷静で居る振りをするしか出来ない。

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