めいん2

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私はいつも、独りだった。
所有者を渡り歩き、永遠にも近い年月を生きる私。
忌み嫌われる物として、生を受けた。

暗闇の中から拾い上げられた。
水の底から救われる様な浮遊感。
久々に触れた人間の暖かさ。
重い扉を開き、私に話掛けてくれた翔子様。
亡国の遺産として、私をこの場所に招いてくれた。

―私の大切な息子の友達になって欲しい、と。


「明久様、無事に彼には出会えましたか?」

自室の扉を開き、降り注ぐ聲に驚く事もなく明久は部屋の中へ歩を進める。
鏡に映る見知った桃色の髪色に、明久は優しい笑顔を浮かべた。

「うん、ありがとうね」

未来を見抜く瑞希が、その答えを知らない筈もないのだが。
敢えて彼に問いかけたのは、喜ぶ聲が聞きたかったからかもしれない。
鏡の前で腰を下ろす明久に、瑞希は手をかざす。

その時、瑞希は久々に己の異形を呪った。

人生は選択肢の連続だ、と言ったのは誰の台詞だったか。
確かに、些細な選択の違いで、世界は簡単に未来を変える。
けれども、世の中にはあるのだ。
決して変わりはしない、どんな選択を選んだとしても変えられない。
大筋のストーリーとして葉脈を伸ばす、道筋。

その大きな流れが、瑞希には見えてしまった。
破滅へと誘う、残酷な未来が。

そして、実体のない瑞希がどんなに未来を見据えようとも。
その時に一番良い選択肢を明久に読み解こうとも。
些細な不適格要素により、未来は変わる。
大筋を取り巻く環境は変わりやすく、大筋は変えられない。

彼女には未来が見える。
見えるだけで何もできない。
救うことも、助けることも。

諦めていた。
誰かの特別になることも。
誰か一人を特別だと考えることも。
そうしてしまえば、救えない苦痛も最低限でまかなえる。
いつの間にか枯れていた他人への感情。
ジレンマに陥らないように、誰か一人を固執しない。
そうやって自分を保っていた。

今は。
あの暗闇から救われ、託された。

翔子様の、優しさに触れた。
明久様の、純粋さに救われた。

そんな、今は。

誰か一人の幸福を願ってやまない今を。

彼女は唯単純な思考回路に酔っていた。
大切にしたい人が居る今を、心から受け入れ歓喜していた。

不確定要素を恐るならば。
その都度未来を見ればいい。
その都度明久様に伝えればいい。

私は、二人の幸せな終わりが見たい。
その為に少しでも良い選択を。

「彼は、読書が好きみたいですよ」

沢山の本に囲まれて、幸せそうに眠る明久様の想い人を読み取る。
これはいつの未来か。
その隣で笑うもう一人が誰なのか分からない。
それでも、その人が明久様になればいい。
他人に取られる前に、その行動を起こしてしまえば。

未来は簡単に変わる。
選択肢一つで、彼の隣で笑う人が決まる。

「そっか、夕飯が終わったら図書講堂に案内しようかなー」

そう言って幸せそうに笑った明久。
瑞希は満足そうに微笑む。

選んだ選択肢が正しいのかは分からない。
それでも。

物語は、未だ続く。

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