めいん2

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理由なんてどうでも良かった。
鏡が運命を読み解いたから。
それだけの、選択意思。
今度こそきっと、この人が僕の望んだ人なんだ。

赤い瞳に揺れる欲望。
強欲にも似たそれを彼の瞳に見た。
その強い眼差しの指すものを僕には理解出来なかったけど。

紙切れ一枚で、契約という名の楔で繋がれた。


契約を済ませた明久と雄二は、取り敢えずこれから雄二が過ごす部屋を探しに行く。
そして明久は、自分の不用意さに頭を抱えた。
勢いの侭に雄二を従者にしたのは良いけど、どこに待機してもらうかなど考えてもいなかった。
召使いの寝食部屋は訳あって女の子しか居ないから、そこに入れる訳にも行かない。
だからと言って客間は、僕の部屋から遠い。
彼が所望した物置は、女王の部屋が近いからやめておいた。
そうやって候補を少しずつ減らして行く。
そして見つけた、僕の部屋から近い丁度良い部屋。

「すごい、いい眺めですね」

目を細めながら、雄二は窓の外を見た。
従者の部屋にしては随分と贅沢だ、と目を細める。
展望と言えば聞こえはいい、ただの使われて居ない屋根裏。
天井は立つとすぐ付きそうな程低いけれど、広さはまあまあ。
何よりも、大きな窓から入る光の量は部屋全体を照らす。

「ここは、僕のお気に入りなんだ」

明久の部屋のある塔の屋上は明久の秘密の隠れ場所でもあった。
子供の頃、家庭教師から逃げる為によく逃げ込んだ。
錆びた頑丈な鍵を雄二に渡し、明久は腰を下ろす。
眼下に広がる世界は、深い森に囲まれた城からでも見える城下町。

「この窓から、外の世界を見るのが好きなの」

光に満ちた、優しい色合い。
活気のあふれる日常風景。
そんな世界が、愛おしい。
慈しむ明久の顔に、雄二は眉を顰める。
王族特有の、一般市民の生活に憧れる感情か。
はたまた、下にいるものを哀れんでいるのか。
どちらにせよ、王族を毛嫌いしている雄二にとって、心地の良いものでは無かった。

「此処から見える程、良いものでもありませんよ」

そう告げた雄二に、明久は笑って見せた。
下賤のものがどんな目にあっているか。
穢い事情、その上に伸し掛る王族の存在。
理解している。
それでも、僕は、この街が好きだ。
精一杯今を生きる人の集まるこの世界が好きだ。

明久は雄二に顔を合わせることなく聲を発した。
丸っきり全てが独り言の様なテンポで紡がれた言葉。

「敬語、使わなくても良いよ」

二人きりの時は、特に。
優子さんは、そういうとこ厳しいから駄目だけど。
僕は別に上下関係とか気にしないからさ。
その言葉に、目を見開く雄二。
こいつは何を言っているのか。
プライドだけがやたらに高い、脳も力も体してない人間。
名前にだけ固執した、自分しか見えていない人種。
それが、王族だと想っていた雄二にとって、明久の発言は余りにも驚きだった。

「ですが、」

「王族なんて、所詮頭の悪い血に縋る時代の遺物だよ」

そう言い放った明久の表情は凍てついて。
反論を認めない威圧は、確かに雄二にも伝わった。
その真意も良く分からないまま、曖昧に返事を返す。

「えっと、じゃあそうするぞ・・・」

居心地の悪そうに告げた雄二に、明久は微笑む。
先程の顔とは打って変わった無邪気な表情。

「じゃあ雄二、仕事の説明は明日するから今日はもう休んで良いよ」

夕飯は、また呼びに来るからそれまで荷物の整理でもしていてよ。
そんな言葉を残して、明久は部屋を後にした。

夕日に染まる部屋に、妙な胸騒ぎと取り残された感覚を抱きながら、雄二は扉を閉める。


運命に流される侭に進む時。

物語は未だ続く。

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