めいん2

□憤怒に自嘲
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ジリジリと肌を灼く日の光。
ぬくもりよりも痛みすら感じれるその光線に、目を細めながら雄二は声を発する。

「外に出たはいいが、何処かへ行くあては有るのか?」

わざわざ外に連れ出しておいて、何も決まってません、なんて言わないよな。
そう瞳で訴えてくる雄二に、僕は笑って見せた。
そんなの無論。

「あるはず無いじゃないか」

僕が言い終わると同時に盛大なため息をついて、雄二は呆れた顔をした。
なんだその顔は。
しょうがないじゃないか。
思い立ったのもさっき、行動に移したのも今。
そんなに早く脳が回転するほど、人間は万能じゃないんだよ。

「お前は脳が回らないんじゃなくて、脳がないんだろ」

さらりと人の心を読み、悪態をつく雄二に僕はすぐさま反撃する。

「僕の脳は雄二みたいにずる賢く出来てないんだよ!!」

ずる賢い、は関係なくねぇか?と雄二が零した言葉を聞き流し、歩は少しずつ駅へと向かう。
二人の馴染みのスーパーも、最近できたゲーム屋も、休日のお出掛けには似つかわしくなく。


どうせだったら、ショッピングモールでも行って適当に散策しようと云うのが二人の合意。
駅から出ているバスは、時間帯によって無料で乗れる。
もし経営バスに乗ったとしても、大体180円位とお手頃お値段。
金欠な僕には有難い訳である。

「お前と二人でショッピングモールてのも、薄ら寒かったか・・・」

狙い通り、無料バスに乗り込んだ雄二は眉を顰めた。
一番人が出歩くであろうお昼時。
休日の天気の良いショッピング日和。
バス内には、女の子グループとカップルしかいない。

「バスの中が真っピンクだー」

バスのいたるところで繰り返される恋模様。
彼らから降り注ぐハート柄は他人の僕にもくっきり見える。
カップルというのは、何故こうも自分たちしか見えて居ないのか。
こんなに大勢がいる中でイチャつく意味は!?
見せつけか。
彼女のいない僕に対するあてつけか畜生。

「いや、純粋にベタベタしたいだけだと思うぞ・・・」

雄二が僕の心を覗いてくるのには、もう慣れた。
それと同時に、漸く目的のモールが見えて僕の機嫌は良くなる。

「雄二、今日こそ僕の方がいっぱい義兵倒してやるからな!」

「は、一丁前な事いうのは、シールドの使い方を覚えてからにしな!」

バスを降りる列の中で、雄二と僕は嘯く。
モール一回の洋服や食べ物には目もくれず、三回のゲームコーナーへ一直線。
クレーンはカップルで、コインは子供達で賑わっているけど、僕らの目的は違う。
人の気配も薄い、ガンコーナ。
そこに両替してきた小銭を一枚入れる。
不吉な音と共に飛び出す題名にすら血糊が付くタイプのゲーム。
連射式の青い銃を片手に、シールドを踏み、準備完了。
その横で、赤い銃を片手に、シールドを踏みつけた雄二が宣う。

「一回死んだらチャージは無しだ、負けた方は無論」

「勝った方の言うことを一つ聞く!!」

よしやるか、と勝気な笑みを浮かべる浮かべる雄二に一瞬だけ目を奪われる。
ちなみに、チャージ無し制度を取り入れたのは、前に違うゲームで二人で戦った時だ。
お互いの負けず嫌いがこうじ、蘇生に金を使い込んでしまったから。
あれは、本当に痛手だった。
あの日から一ヶの間、僕のご飯は水オンリー、雄二は飲み物を我慢するという苦行。

「明久、集中しねぇとボスまでたどり着けないぜ」

「何を、シールドを覚えた僕に敵なんか!!」

このゲームは家庭用の時散々やりこんだ。
どこで敵が出るかも、ボス攻略も完璧だ。
ただ、難点は家庭用は画面から敵を離せば相手は攻撃できない。
だから、弾補充には後ろを向けばよかった。
だが、ゲームセンターは二人画面が連動しているため、後ろを向く概念がなかった。
そのため補充時に的に攻め入られるという寸法。
本当はそこでシールドを使えばいいんだけれど、焦った僕はひたすら撃たれた。

「お、来たぜ、一面ボス」

「狙うのは、両足両肩と眼だよ!」

「俺は右半身と眼中心に狙う」

「オッケー!左と雑魚兵は任せてよ」

後に、足元にあるペタルを踏めばシールドが出ると教えられ、納得した。
これで、もう打ち込まれる事何て無い!


画面に表示される1ステージクリアーの文字。
得点ランクは、僕がSで雄二がA。

「な、なにぃ・・・」

「ふん、最後に僕に雑魚を任せたのが悪かったね」

ボスを倒した得点は二人に入るけど、雑魚一体は倒した人にしか入らない。
それに、反射神経で射つ雄二と違ってどこに出るか知ってる僕の方が効率がいい。
・・・まぁ、それでもランクAってのはすごいんだけどね。
僕がS取れたのも、雄二がほぼ一人でボスを倒してくれたお蔭なんだよね。
まぁ、教えてやらないけどさ。

その後も順調に進んでゆき、最終ステージ。


「よしゃ!俺の勝ち!!」

「くっそ、まけたー!!」

いつの間にか集まっていたギャラリーも、ゲームクリアに感嘆の声を上げる。
拍手を送る人もいて、少しだけ、気恥ずかしかった。
けれど、負けた悔しさは拭えない。
見事な敗退、さすが我がFクラス代表。
一筋縄には行かないか!

「Fクラス代表は関係ねぇだろ」

未だ笑顔な雄二が心底憎たらしい。

「雄二、次!次のゲームに行こう!!」

そう告げた僕を雄二は一瞥する。
くそう、こいつやっぱり忘れていないな。
ゲームを始める時のルール。

「負けた奴は?」

「・・・勝った奴の言うことを一つ聞く」

ぐぬぬ、何を言ってくる気だこいつは。
雄二は性格が果てしなく悪いからな!
無論、僕が勝っても罰ゲーム紛いな事をするつもりだったがな!!

「ほーう、それなら俺も罰ゲーム紛いにしようか・・・」

その台詞に背筋が凍る。
こいつ、マジだ!!

「雄二、軽いので!軽いのでお願い!!」

そう言った僕の言葉に返事がない。
恐る恐る雄二の顔を覗き込むと、青ざめた表情。
も、もしかして・・・

「明久、逃げるぞ・・・」

前方3m先に見える黒髪の美少女。
彼女は、そう、雄二の幼馴染霧島さん。
逃げる、と告げてからの雄二の行動は素早かった。
僕の手を引き、霧島さんから正反対の方向へ走り出す。
運良く、霧島さんは気づいていない様子で、追いかけては来ない。
それでも雄二は足を早め、彼女が来ないであろう男子便所へ逃げ込んだ。
来ないと言わないのは、霧島さんは雄二を追って入りそうな気がするから。

「そんな、逃げなくてもいいんじゃない?」

そうやんわりと告げた僕に、雄二は噛み付く。

「お前と二人でいるとこなんて見られてみろ!浮気だのなんだの言われて散々な目に合うに決まってる」

その台詞に少しだけ、イラとする。
なんだよそれ、僕と雄二が一緒に居ちゃいけないって事?
なんでそこまで霧島さんに気を使わなくちゃいけないのさ。
雄二は相当焦っている様で、僕が機嫌を損ねた事にも気づかない。

嫌いだ、心の底からそんな声が出そうになる。
霧島さんが、嫌いなんじゃない。
霧島さんの一挙一動に振り回される雄二を見ているのが。
他人が何処で何をしていようと、我関せずな雄二は霧島さんの前では姿を消す。

ずるい、ずるいよ。
そんな関心を、僕に向けてくれたら良いのに。
それは本当に憤怒に近い感情。

そんな感情を、押しつぶすように、僕は笑った。

自らを嘲る、そんな笑みで。


なんて、脆い心だろう。

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