めいん2
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開け放たれた扉、肩で息をする少年。
突然の訪問者に、雄二は驚きながらも顔を向ける。
それに釣られるように目を向けた優子は、驚嘆の声を上げた。
「あ、明久様何事ですか!?」
その台詞に雄二は嫌厭の表情を灯す。
乱れた衣服に惜しげもなく散りばめられた宝石。
血色の良い顔色。
そして何よりも胼胝の一つもない綺麗な手は、彼が一度も剣を振るった事のないことを表す。
雄二の軽蔑してやまない貴族、乃至それよりも上の立場に属している事は一目瞭然だった。
そんな雄二の心情を知ってか知らずか、明久は焦燥に駆られながら言葉を紡ぐ。
「やあ、秀吉今日も可愛いね」
勿論、その台詞に優子は骨が軋むほど拳を握る。
相手が王子でなければ掴み掛かっていた事は明白で、雄二は顔を歪める。
「明久様、私は秀吉では無いと何度も…」
「それより秀吉!僕、彼が欲しいんだ」
呆れながらも柔らかく訂正する優子に喰気味で言葉を発する明久。
その発言に優子の眉間の皺が深くなる。
こいつは馬鹿なんじゃないかと、雄二は一瞬本気で思った。
一度は自分も間違えた手前、一方的に非難は出来ないが、仮にも同じ城内で過ごしてきただろう自らの部下。
似ていると言っても、そこまで見分けがつかない程でも無い彼女等を何度も間違える姿に、他人である雄二でさえ苛立つのだ。
間違えられることが嫌いな優子には尚更の事だろう。
だが、優子の顔が険しくなった理由は別にあった。
明久の秀吉愛は一種の病気だと、優子は理解している。
だから間違えられようが、諦めていた。
「彼、とは坂本雄二の事ですか?」
優子が顔を濁らせたのは、明久のもう一つの台詞だった。
明久は優子の手から先程の契約書を引ったくり、契約が終了していないことを確かめ、安堵の息を漏らした。
「うん。僕の従者に欲しいんだ」
雄二って名前なんだ、と契約書に目を通しながら呟く明久。
優子は無言で、始めに用紙を出した引き出しでは無いところから一枚の古い紙を取り出した。
それは、王族が契約に使う紙。
先程の優子と雄二の契約書とは比べられないほど高価で、また高貴な用紙。
そこで漸く、雄二は彼が王族の人間であると確信を持つ。
「あなた、仕事は何でも良いって言ったわよね」
優子の台詞に、雄二は反射的に答える。
「あぁ、勿論」
本当ならば、王族の下に使えるなど御免だったが。
それでも一度口に出したことを曲げることは彼の信条に反する。
どんな相手だろうと利用して、成り上がってやる。
その心意気も決して忘れていなかった。
「やったー、此れから宜しくね雄二っ」
早速呼び捨てかよ、と心の内では思いながら雄二は笑顔を作る。
こうして彼は城での仕事を手に入れたのであった。
物語は未だ続く。
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