学校の日常30

□ノート提出日
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クーラーがない、この執行部室でも比較的、快適に過ごせるようになった九月。
久保田は時任のノートを写していた。中間考査後のノート提出のためだ。

「たく、いっつも寝てるからこうなるんだろ」
「ごめんね?」

別に出さなくても、と思ってはいるがそう言ってしまえばこの変なところで真面目な同居人は怒るだろうから口には出さない。
変わりににっこりと笑って言葉だけの謝罪をすれば、彼は面白いくらい真っ赤に染まって。

「今日の晩飯、当番代われば許してやる……」

そっぽを向いた彼がポツリと言う。
笑顔で返し、黒猫の頭を撫でる。頭はだんだんと降りてきてポスンと自分の膝の上にきた。
秋の陽気に当てられ、眠たそうな瞳が見上げてくる。

「久保ちゃん……帰るとき……」
最後まで言えないまま、眠りに落ちた彼を愛しそうに見つめ、久保田はペンを動かす。
他のメンバーが出払っている今、聞こえてくるのは唯一の存在がたてる穏やかな寝息と自分のペンがノートを走る音だけ。

――自分も微睡みたくなるくらい心地のよい空間。

この黒猫に会う以前は味わうことのなかった感覚に思わず口端が上がる。
共に焦燥も湧いてくる。いつまで二人はこうしていられるのか、いや、いつこの黒猫は自分から離れていってしまうのか。
彼が隣にいる安心、安全を享受する裏で常に抱えている不安。

「まあ、まだ手放せないけどね」

こぼした本音は誰にも届かず消えていった。
いつの間にか止まっていたペンから愛煙に手を伸ばしたら膝の上の黒猫が身動ぎ一つ。

「久保ちゃん……」

どんな夢を見ているのやら、自分の名前を呼ぶ黒猫に未だに慣れない幸福を感じる。

「……今のは催促?」

胸ポケットに伸ばしていた手はペンへとトンボ返り。
再びペンは走り出した。



たまにはこれもいいかもね

ノート提出日



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