novel
□求められているのは
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「もう!ベルちゃんたらいつまで寝てるつもりなのかしら!フランちゃん、起こして行ってきてくれる?」
「何でミーが起こしに行かなきゃなんないんですー?自分が行けばいいじゃないですかー」
「そんなこと言わないでよ。アタシは朝食の支度してるのよ?アタシが起こしに行って戻ってきてから朝食作るんじゃ出来るまで待たなきゃいけないわよ?それでもいいなら…」
朝食の支度をしていたルッスーリアがわざとらしく手を止めてベルフェゴールの部屋に行こうとするのをさっきからベルフェゴール一人が来ないせいでゆっくりと支度を進めるルッスーリアを空腹に耐えながら待っていたフランがこれ以上待たされるのは御免だ、と焦ったようにルッスの行く手を阻む。
「あー無理です!分かりました、分かりましたよー。ミーが行ってきますよー…」
「最初からそうしてくれればいいのよ〜」
嬉々として腰をくねらせながら朝食の支度を再開するオカマを尻目に渋々ベルフェゴールの部屋へと足を運ぶ。
部屋の扉を開けると予想通りベッドの上でベルフェゴールが寝息を立てていた。自分が人に迷惑をかけているのが分かってんのか、と眠っている人間相手に喧嘩を売りたくなるほどの穏やかな寝顔に若干腹を立てながらも、起こさなければ自分の腹が満たされることはないとベッドの上のベルフェゴールを起こしにかかる。
「ベルセンパーイ起きてくださいー。朝食の時間ですよー」
「…ん」
「ベルセンパーイ」
「…んー」
「…いや、夢の中で返事されても。おい起きろ堕王子ー」
「……も…」
「……え……」
ベルが寝言で呟いた言葉にベッドの脇でベルを起こそうとしていたフランの気力は萎え、ふらふらと部屋を出て行った。
ミーとしたことが情けない。あんな言葉ひとつで感情を乱すなんて。人の心を揺さぶる術師が人に心を揺さぶられるなんて。全くどうかしてる。
『…まー…も…ん』
あぁ、やはり自分は必要とされていないのだ。今、霧の守護者としてここにいるのはミーなのに、寝言で名前を呟く程前任とは存在価値が比べ物にならないということか。
ミーが代わりになることなど不可能なのだろうか。否、そんな無粋な質問はするだけ無駄だ。たとえ質問したとしたら誰もが声を揃えて言うだろう。
不可能だ、と。
求められているのは自分じゃないことぐらい最初から分かっていた。分かっていたはずなのに、何故今こんなにも自分は心を締め付けられているのか。ポーカーフェイスで生意気な毒舌カエルと呼ばれていたやつはどこに行った。こんなの、こんな感情はミーじゃない。ミーは何も悲しくない、辛くない、惨めなんかじゃない。ミーは…
そうか。ミーも一人の人間だ。人並みに感情もあるし、絶対に譲れないプライドのひとつもある。
だが、プライドというのは人の弱さであり、それを崩された時に誰にも見せたくない、見られたくない素顔が出てしまういわば人の本質を隠すベールだ。取り払えば心まで見透かされてしまう。
ミーはずっとそれに怯えてきた。だから人に近づくことを出来るだけ避けてきた。
いつの間にこんなに弱くなったのか。