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□恋に怠けた者語
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きらきら。目の前にある愛しい恋人の目を、目の輝きを形容する言葉はソレだった。んー。どれにしようかなあ。きーちゃん、どれがいいと思う?そう聞かれて彼女がさっきから気にして見てるベイクドチーズケーキを示すとまたううん…と唸った。
「今は苺の気分なの」
そう言って結局会計に持っていったのは苺ののっかってる生クリームのケーキ。ああ、隣の庭の芝は青く見えるみたいなかんじっスねわかります。いや、ちがうかな。
そちらのお客様は。
桃っちのそばに立っていた俺に注文を聞かれてあーどうしよう。あんまり甘いものとか好きじゃないんだよなあ。って内心迷う。あ、俺はコーヒーでいいです。言ったそばからなんか敗北感。ありきたりだよなあ、でも本当にケーキはいらなかったんだ。
俺が注文を終えると先に席を取りに行った桃っちを探す。桃っちはいつも窓側の席を好むから探しやすい。ほら、やっぱり。
「ねえねえ、きーちゃん」
「ん?どうしたんスか?」
「えへへ。やっぱり何でもないや」
そう言ってクスクス嬉しそうに笑う彼女につい俺もつられる。あはは、何それ。何か呼びたくなっちゃって。
バカップルみたいな会話してんなー、とは自覚ありだけど、まあ実際間違いでもないからいいんじゃないか。あ、やっぱり間違いではある。「カップル」ではないか。
桃っちはにこにこと嬉しそうに左手の指を見つめる。外から二番目。あかちゃんゆび、おねえさんゆび、おにいさんゆび、おかあさんゆび、おとうさんゆび、の二番目の指。きらきら。彼女の目に負けず輝くピンクゴールドの指輪に「ああ、やっぱりこれにしてよかった」なんて今更ながら思う。大きいダイヤモンドなんてついてないけど、小さく輝くのがきらきらと光を反射させてる様はとても美しい。
要は、今日は結婚一周年なのだ。
俺は結構記念日とか大事にするタイプだから勿論朝から今日は休み。実は映画の撮影の予定があったが今日は特別に休ませてもらった。俺が普段私情で仕事を休むなんてことないから驚いていたマネージャーや監督も、理由を話したら涼太らしいと笑われた。
朝から二人で手を繋いで街を散歩。俺はというと一応芸能界でも売れてるほうだから眼鏡をかけて、帽子(ニット帽)かぶってと変装しているけど、それでもまあバレたりする。でもまあ、俺が結婚していることは発表してあるし、会見時の彼女の印象が世間的にも良かったのか、はたまた俺の結婚前の実に素直な恋バナブログを読んでくれていたからか彼女への批判はあまりない。ある意味で順風満帆な結婚生活である。
だからか、街を歩く高校生にも「あ、キセリョだー。わあ、奥さんですか?超キレー」だとか「うお、美男美女っスね!憧れる!」だとかはたまた「写メ撮ってもいいですかー?あ、奥さんも是非!!ていうか奥さんください是非!」とかいう俺の桃っちへの愛の言葉が聞こえてきたりするわけで。あ、俺の桃っち(強調)ね。
服屋や電気店(家電見て2人でこれ欲しいねーとか話すのは楽しい)、雑貨屋を回って隠れ家みたいに路地裏にあるお洒落なパン屋で少し遅めのランチタイム。そしてまた手を繋ぎ直して本屋に寄って、バスケ関連の雑誌買って、そして今いるカフェに入った。なんて中坊みたいなデート。あ、でも俺、中学生のときって好きな子とデートしたことないんだけどね。好きな子はずっと変わらず桃っちだったけど桃っちは黒子っちが好きだったから。あの頃はつらかったなあ。思い出す度甘ずっぱい恋模様。
「お待たせいたしましたー」
色々物思いに耽っているとようやく注文してたものが運ばれてきた。ようやく、って言ってもまだご5分もたっていないけど。
苺のケーキです。あ、それ私です。はい、どうぞ。ありがとう。
見た目はすっげえ綺麗な彼女のケーキへの期待に膨らむ彼女の行動にクスリ、と笑う。
何よ、きーちゃん。ううん、何でもない。嘘でしょ?きーちゃん、私を見くびらないでよ?女のカンは時に運命より残酷なのよ?ごめん、嘘。あんまり桃っちが可愛いからなんか嬉しくなっちゃった。
よくわからないことをおっしゃる彼女に思ったままのことを言えば、刹那の間をおいて瞬時に真っ赤に染まった顔。あーあ、そんな可愛い顔するから俺にキスされるってわかってないのかなあ。そんな理不尽なことを考えながら彼女の額にキス。ちゅ。軽いリップ音にうん、満足。
「ちょ、きーちゃん…っ!人前で…仮にも芸能人でしょ!?」
「だって桃っち可愛いんだもん。もう、チョー可愛い」
「………もう」
きーちゃん本当たらしだよね。でも好き!
いきなりの告白に不意打ちをくらって動きが止まった俺の右手から桃っちがコーヒーを奪い取る。こくん、喉を鳴らして一口飲んでから「えへへ、仕返し」小悪魔宜しく笑った彼女にしてやられた、と頬を染めた。
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