short

□我慢なんて必要ない
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「あ…っと」
「?どしたの?黒子っち」
「…。…いえ、なんでもありません」
「そうっスか?」
通学路。駅まで一緒に来た二人はじゃあ、ここで。と挨拶を交わした。
黄瀬はこれから撮影があるからと正反対のホームへ向かって行く。
―――繋いでいた手が、離れた。
思わず黒子から漏れた声は、擦れたような小さな声であったが、自称『黒子っちの王子様』である。通常では聞こえないはずのボリュームのセリフを聞き逃すことはなかったようだ。
しかし、その声が何を意図していたのかはわからず、不思議そうにクエスチョンマークを浮かべてはいるものの反対側のホームへと再び歩き出した。
――すでに黄瀬が乗らなければならない電車は止まっている。
普段ならば忠犬宜しく黒子が電車に乗るまで見送る彼ではあるが、仕事の日はそうもいかないようだ。
「また明日ね、黒子っち!」
「…はい。また明日…」
さっきまで繋いでいた右手を振って、駆けていく黄瀬を見続ける。
プシュ――――――――――…
動き出した電車を、瞬きもせずに見送ると、きゅ、と右手を握った。
「…手、思わず…」
(離さないでほしいなんて、言うところでした…)

 
 



我慢なんて必要ない
 
 
 
 

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