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□急に恋しくなったりね
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俺は今年、誠凛高校に進学した。
所謂帰国子女。
所属部はバスケ部。
恵まれた体格で一年生ながらもエースと呼ばれるようになった、どこにでもいそうな男子高校生。
しかし、俺と同じクラスで同じ部活で一緒にレギュラーやってる腐れ縁のやつと仲良くなったのがいけなかった。…ようだ。
やつは黒子テツヤ。
黒子と関わってから、俺は段々『普通の高校生』というポジションから遠ざかって行っているような気がしなくもない。
普通は驚くようなことも、今では普通に受け止められるようになってしまったし。
(柔軟性が出てきたねと言われるようになったが、これは只単に慣れだと思う。マジで)
ほら、今だって目の前で噂の黒子がなにか話を始めようとしてるわ。うわー、聞きたくねえ。だってほら、なんか写真取り出してきたぞこいつ。思い出話か?
「見てくださいよこれ。昨日赤司くんから送られてきた写真です」
「あ…?赤司から…?」
正直あいつに対してはいきなり切りかかられたこともありいいイメージが全くと言っていいほどない(断言)。
てゆーかむしろ、重度の中二なのかな、というイメージしか湧かない。
「まあ確かに中二病は患ってると思いますよ。彼にとっては勝利とは息をすることと同じだそうですし。なんといっても思考がオヤコロですからね」
「元チームメイト、しかもキャプテンに対して随分な言い草じゃね?」
「本当のことですし」
当然、尊敬してるんですけどね。
そう言いながら写真を俺のほうへ回してくる黒子の表情は確かに柔らかくて、ああ、黒子は本当にアイツラが好きなんだな、と思った。
やはり、彼にとっては良い思い出らしい。
「お?青峰じゃん」
「はい。この写真は確か合宿のときの写真ですね。――あ、これは黄瀬くんとの1対1です」
「うっわ、これ緑間?…つーか紫原、いっつも菓子食ってね?」
「彼はそういう人です」
「おい」
「赤司くんの写真もありますよ」
「…将棋?」
「はい。彼はよく緑間くんとミーティング中将棋を指してましたね。ちなみに赤司くんは将棋でも負けたことは無いそうです」
「―−嫌味なやつだな」
「だからあんな中二病患者になってしまったんだと思いますよ」
一枚一枚写真についての説明をしてくれる黒子。その様子はとても楽しそうである。
いつものポーカーフェイスではあるがその実イキイキとしているようにも見えた。
「――げ、」
「あ、」
めくっていった先の最後の一枚を見て率直に素直な感想が出てきた。
その瞬間黒子が反応する。
「これ、いいでしょう」
「あー…」
いい、のだろうか。
いや、いいに決まってる。そこらの女子に見せたら刹那オークションにでも成り上がりそうな。
―――黒子が黄瀬に、抱きしめられている写真である。
ちなみに黒子と黄瀬は恋人同士である。
もちろん同じ部のレギュラーであるほどであり黒子は男であるし、黒子の元部活仲間である黄瀬もまた男である。
――そこらへんから、通常と離れて行ってしまっているのだが。
ちなみに黄瀬とは、10年に一人の天才と豪語されているやつらの一人であり、同時にモデルもやっている嫌味なやつである。
…まあ、いいやつだということは認めてやらなくもないが。
…でも、やっぱこれ突っ込むべきか?
スルーする?俺、どうする???
だっておかしくね?抱きしめちゃってるってどうよ?人前で?しかも写真で?つーか黄瀬おまえゲーノージンだろーが。証拠写真残してなにしてんだよ!!!!?
「黄瀬くん、カッコよくないですか?」
「……」
悔しいがそれは認める。
かっこいい。流石人気モデル。イケメン。
同じ男としてうらやましくなるその美貌。
しかし、しかしだな!!
「え、火神くんも欲しいんですか?…明日でよかったらデータ赤司くんに送ってもらうこともできますけど…」
い ら ね え し 。
いやまじいらないですけど俺!!ちょ、なんで俺がおまえらのいちゃいちゃ写真持ってなきゃなんねーの!!おかしいだろーが!!
「はぁ…会いたくなってきちゃいました。…今日、黄瀬くん仕事なかったような…」
「覚えてるんだ!?」
「当然ですよ。…よし、電話してみましょう」
俺の手から写真を取って、すっくと立ち上がった黒子。
颯爽と教室から出ていこうとする直前、ふと何かを思い出したように俺のほうへ振り向いた。
「――火神くん」
「あ?」
「――黄瀬くんのこと好きになってはダメですからね。…やっぱり惚れられても困るので写真はあげません。我慢してください」
「…はぁ?」
い ら ね え し 。
いろいろ突っ込もうと思って席を立ったらもう既に水色の姿はなかった。
ああ、まじ疲れる。
しかし、そんなやつとの生活が楽しいのも否定はできねーな。
窓から空を見上げながら、くすりと笑みをこぼした。

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