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□初恋は叶わない
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翌日から沖田は目も合わせなくなった。
「どうしたの神楽ちゃん。喧嘩でもした?」
「…いや、してないアル」
そうなの?と言ってアネゴは沖田を一瞥する。
その視線を神楽も追った。
ゴリラ達と集って席でパンを食べているその姿は、どうにも覇気がないように思える。
「なんか、ふたり一緒にいないと違和感あるわ」
アネゴが呟いた。
後悔、といったらそれまでだが。
神楽は気づいていた。
沖田との距離が離れた今、よくわかる。
神楽は沖田に惚れていたのだと。
(なんでだァァァァァァァァァァッッッ!!!!!)
怒りにも似た感情が噴き出す。
信じらんない。
信じらんないアル!!!!
いくらなんでも意地悪すぎるヨ!!とこの世のどこかにいるかもしれない神様に恨みごとを吐いた。
振った後に恋心に気づくとかわけがわからない展開に嫌気がさす。
「ちょ、神楽ちゃんどうしたのっ」
「やってらんないアル!」
ドカ食いをはじめた神楽を横目で見る男が、ひとり。
*
喉が渇くと水を欲するように、会話の中に沖田を欲した。
今まではどうでもいいことに割り込んでくるうっとおしい存在だった沖田が遠くなったことに、神楽は愁いた。
先ほどの沖田の発言が耳に残る。
『…あー、いいなァ彼女。抱きしめて甘やかしたい』
馬鹿じゃねーの。
神楽は思った。
誰のことを考えてるの。
それはもう、私じゃないアルか。
それを本人に問いかけるには、会話のない1ヶ月は大きくて。
それだけの期間があれば、心が移るのも時間の問題の気がした。
「ばーかばーか」
足元の枯葉をくしゃくしゃに踏み付ける。
冬の冷たい風が屋上に舞う。
この葉っぱは風に乗って遥か頭上までのぼってきたのだろうか。
なんてことない昼休み。
なんてことない教室での会話にいてもたってもいられなくなった神楽は、屋上まで逃げてきた。
幸いはじまったばかりの昼休み、好き好んでこの寒空の下屋上で弁当を食べるやつはいないようだ。
ひとりの空間で神楽は眉を寄せる。
今更好きだなんて言えないのに。
心だけがひたすらに痛む。傷む。
1ヶ月前。
神楽はそれ以上の傷を沖田に負わせたというのに。
「うーーーー」
心臓が、痛い。
喉が搾り取られるように、息が苦しくて。身をかがめた。
冷たい風が制服を揺らす。
ゆらり。ゆらり。
涙が空に舞った。
「なに、泣いてんでィ」
幻聴かと思った。