krbs short

□夢見るように、愛したい
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腕いっぱいに抱えたチョコレートはカカオの香りを直接的に、漂わせてる。
レジ袋を買うのは少し勿体無くて、でもエコバックも何も持ち物はサイフだけでどうしようって思って結局無料のビニール袋に詰め込んできた。バレンタインにはまだはやい。




頭を撫でるのが、彼の癖だと最近知った。



大きな男らしいゴツゴツした手が僕の頭に、フィットする。撫でられるのは、僕も好きだ。というか、彼にだったら何をされてもいいとさえ思えてしまう。これ以上ないくらい惚れてて悔しいけれど。




彼を好きだと確信したのは冬のウィンターカップだった。準決勝。赤司率いる洛山に敗北したとき、彼は涙を流していた。いつも陽気に笑ってて楽しそうに弧を描く唇があの時は噛みしめられてて。
あんな人でも、泣くんだなあ。って思った。
綺麗な涙を流すんだなあ。凄く努力してきたんだろうなあ。これからも多分それは続けるんだろうなあ。そして、やっぱり、バスケ、好きなんだろうなあ。大好きなんだろうなあ。
そう思ったら、体が自然に彼に寄って行ってしまいそうだった。抱きしめてあげたかった。涙を止めてあげたかった。

そして自覚した。
僕は高尾和成が好きなんだということを。














恋を自覚したのがウィンターカップだっただけで、はじまりは今にして思うと出会いのときからだったのかもしれない。
あの緑間と仲良くしているという彼が凄いと思った。
一発で見つけられた。
そのときから、きっと。











「テッちゃん」
お菓子づくりの専門店からたくさんのビニール袋を抱えて出てきたテツナを呼び止めたのは高尾だった。おいで、と言うと自分がしてたマフラーを外してぐるぐるテツナに巻き付ける。まさかいるとは思っていなかったから目はさらにくりくりに開かれている。
テツナがここにいることは桃井から聞いて知っていた。この店をテツナに教えたのは桃井なのだ。多分、テツくんいっぱいのチョコレート抱えて出てくると思うから、エコバックでも持って迎えに行ってあげてね。とメールが来たのは十分前。家からある程度近かったからダッシュで来たけどそれにしても、桃井さつきはいつだって俺に鬼畜すぎる。情報はありがたかったがもっと早くに知らせてくれても良かっただろうに。テツくんの彼氏なんかに優しくする義理はないもんね!と昔舌を出しながら言われたこともあったしなあ、としみじみと唸る。もし入れ違いになったらどうすんだよ、という心配を余所に、着いたら丁度テツナがチョコレートにまみれて店から出てきたところだった。
「良かった…間に合った」
「どうして高尾くんが此処に?」
あ、マフラーありがとうございます。とゆるく笑って顔をマフラーに埋めてすんすんとにおいを嗅いでいる。うわ、やめてよ、臭いから。と焦って言ったら、君の匂いがして落ち着きます。と言われて情けないことに頬に熱が集まった。


付き合い初めてもう三年。告白したのは高尾からだった。
高2の夏。インターハイが終わって。
「ずっと見てた。どこに行っても俺は黒子のことを見つけられると思うんだけど、どう?」
遠回しな、だけど2人にしか通じない告白。テツナが笑った。
「好きだよ。もうずっと。気づいたら考えてるくらいには俺の頭の中占領してるし。出掛けるといないのはわかってても人混みを捜しちゃうんだよ」
「僕もお風呂の中とか、寝る前とか、高尾くんの事考えてます。会えた日は、心臓がうるさくて眠れません」
「…え、それって…」
「高尾くんのことが好きです。…ぼ、僕でよければ…彼女に…してくださいませんか?」
「……っ」
思わず『彼女』のことを抱きしめた『彼氏』はこのうえないくらい幸せそうに笑っていた。













風が、熱くなった頬を冷ます。


「テッちゃんが寒いんじゃないかと思って迎えに来たよ」
「ああ…もしかして桃井さんですか?やけにご機嫌に電話に出たと思ったんですよもう…」
ばらさないでって言ったのに。
テツナはすっかり鼻の先を赤くして唇を尖らせている。雪もちらほら降り始めた。
テツナから受け取った大量のチョコレートは今は高尾が持参したビニール袋の中だ。右手にそれをかけてポケットに手を突っ込んだ高尾が、左手でテツナの右手を拾った。チョコレートががさりと音を立てる。
「…こんなに買って…どうする気?」
横目にビニール袋を見ながら苦笑した高尾から拗ねるようにしてテツナが「えっと…」と顔を反対側へそらした。
「今年はチョコレート鍋をしてみたくてですね」
「それ美味しいの。何入れる気」
「お餅に、牛肉に、葱に、大根に、あ、つくねも買ってありますよ」
「それ何?デザートとして食べるわけじゃないよね。フォンデュじゃないわけだよね」
「他に何か入れたいものありますか?」
「チョコレートは二人でケーキにでもしようよ。鍋は俺、ポン酢で食いたい」
「えええ…美味しそうだと思ったんですけど…」
しゅん、と名残惜しそうにチョコレートの入ったビニール袋を見るテツナに苦笑いをするしかない高尾である。どうしてこうも俺の周りには味覚オンチばかりなのだろうか。

同棲は、まだしていない。
しようか、という話題もあったにはあったのだが、いざ手放すとなると黒子の父親が黙っていなく、せめてあと2年…あと2年は過ごさせてくれ。と涙ながらに頼まれた高尾は、大学三年にのぼったら、同棲をしてもいいという約束のもとこうして金、土と高尾の一人暮らしのアパートにテツナが泊まって日曜日に帰るという日課をつづけている。その際、テツナが材料を買ってきたり事前に高尾が買ってきたり二人でデートがてら行ったりして調達したそれらで共に夕飯をつくるのだ。おかげでゆで卵しかつくれなかったテツナも今ではすっかり(?)料理上手だ。ーーーー少し味覚オンチではあるが高尾が一緒につくれば変な料理はしないよう見張っているーーーー

それもまあ、あと三ヶ月もすれば、約束のときだ。

一緒に料理をする。このスタンスは多分ずっと、続いていくと思う。
今は、大学も2年にあがって、冬。年明けて、すぐの土曜日。
いい加減餅に飽きてきたと電話をしてきたのは実家暮らしのテツナだった。

「高尾くんの手料理が食べたい…」
と、物欲しそうな声で頼まれれば作らないわけにいかない。というかそもそも、高尾には、テツナの滅多にないわがままを叶えないわけにはいかないという熱い想いがあったわけで。
材料は僕が買っていくので。というテツナの言葉に騙されるところであった。








「もう年明けてからずっと餅なの?」
「そうですね…。お節料理にあんこ、納豆、きなこ…。美味しいんですけれど流石に連日食べていると飽きますね」
苦笑したテツナが、高尾を見上げた。意識されていない、上目遣い。
心臓が、暴れる。
「高尾くんはお餅は?」
頬に集まった熱を彼女に見せたくなくて思わずそっぽを向く。手は相変わらず握ったままだ。
「元旦に実家に帰ったきり、食ってねーや。2日には、家戻ってきたし。」
全然飽きてないんだなー、だから。とくしゃりと顔を崩して笑った顔を見てテツナが顔を赤らめた。
今年の年越しはふたりで初詣で。そのとき、高尾は言った。

幸せになろうね、と。

自然に彼の未来に自分が入っていたことが嬉しくて。テツナは連日彼との未来を夢見た。
あと三ヶ月で毎日一緒にいれるようになる。結婚ではないけれど、擬似結婚というべきか、否か。





チョコレートの香りに酔いしれていたい。






カカオ濃度は60%。どこぞの秀才は100%がお好みなようだが、そんなこと知ったこっちゃない。甘党なテツナには少し苦くて、高尾的にはちょっと物足りないくらい。

鍋に入れてもらえなかったたっぷりのチョコレートはガトーショコラとして二人に食されたそうな。


使いきれなかった残りのチョコレートはテツナが一ヶ月先のバレンタインで消費する予定である。














「ずっと恋してたい」

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