krbs short

□fireflower
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湿気の酷い最近の気候に色素の薄い空色の髪の毛が負けてしまっている。
肩までの長さである髪は広がりやすく、まとまりづらい為、ここ数日はひとつに結わえて後ろに流すようにしていた。
 
「日本の夏はコレだから嫌なんスよね、まったく。暑いしジメジメするし」
「あー、それはありますね。赤道付近とかは風通しもよくて暑くても快適だそうですよ」
「そうなの?赤道なんて日本より暑そうっスけど」
「向こうには盆地というものはあまり無いそうですからね」
「ああ、成る程」
   
テツナは隣で、やっぱあついっス、と手であおぎながら歩く黄瀬を見上げた。
日曜日である今日も今日とてハードな練習が朝から晩まであった帝光バスケ部。夏の大会も本格的に迫り熱気が籠もる体育館。気温の上昇。部員が多いことによる人口密度の高さ。それらすべてが比例するように選手、マネージャー共に汗だくになりながらの部活を終えた今。
テツナは女子の嗜みとして汗拭きシートで体は清めたものの、こうして外を歩いていると髪の毛を汗が伝い流れて気持ち悪い。もう日も暮れかかり涼しくなってはきているものの、一日中太陽を見続けたアスファルトは未だ火傷をしているようだ。
見上げた黄瀬も汗をかいてはいるものの、それが妙にサマになっている。それは整いすぎた容姿がそう魅せているのだろうし、彼の中学生とは思えない色気も効果を成しているのかもしれない。
生ぬるい風に乗って香るフレグランスは仄かにシトラスの香りがしてそれもまた心拍数を上昇させられる。
 
(やっぱり、黄瀬くんはかっこいいです)
 
不意にそうおもったテツナが恋を再確認して身をよじらせたくなっているとき、並ぶ黄瀬も同じようなことを思っていた。
 
いつもおろしているさらさらの髪が今日はポニーティルにされていた。それを朝見たときはあのうなじに悩まされた。いつもより暑かった体育館で選手のサポートに走り回る彼女はやっぱり頼りになる最高の仲間だと再確認したあと、汗を首にかけたタオルで拭う姿はさりげなく色気を醸し出していた。正直人前であんまり色気だとか可愛い姿だとかを晒して欲しくないと思う黄瀬だが、凝視する俺に気づいた彼女が近づいて来て「黄瀬くんも、汗しっかり拭いてくださいね」とタオルを首にかけてくれたから良しとする。あわよくばそのまま抱きしめて腕の中へ閉じ込めてしまいたかったが、そのときの赤司っちの視線がとても痛かったし、黄瀬自身も汗をかいていたから自重しておいた。あのときふわりとテツナから香ったのは石鹸の香りでドキドキしたのを覚えている。
 
現に今も黄瀬はテツナの香りにドキドキしていた。
 
二人の間の距離は30センチ程度だろう。少し腕をのばせば届く距離。
しかし黄瀬はその数センチが伸ばせない。
首元に甘い苦しさが湧いてくる。息をするのも苦しくて、口が変に渇く。
黄瀬だって、恋愛初心者ではないのだ。これがなにを表しているのかくらいわかっている。そのうえで、毎日更に彼女に恋をしていくのだ。
 
(テツナっちやっぱ超可愛いしもう…)
 
女の子が通り過ぎるたび振り返られるほどの美貌を持つ彼が実は隣を歩く彼女のことしか考えていないと知ったらみんなどうなるんだろうか。花火が輝く刹那を例えるなら今である。ーー青春。黄瀬は隣を歩くテツナの手を緊張しながらも取ると、ふたりどちらからともなく顔を見合わせて華やかに笑いあった。

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