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□プラトニック ラブ
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斜め左前45°。
私から見た彼の位置である。
 
人が好意を抱きやすい人って存在するんだな、と思う。友達からは勿論、教師からもからかわれやすい彼はいつも笑顔だ。どうしてそんなに笑えるのだろう。テツナは不思議だった。
惹かれていた、のかもしれない。いつからかなんて明確にはわからない。けど、いつの間にか、…少なくとも2カ月前には既に、彼を目で追うようになっていた。
「黄瀬ぇー、お前これ超面白かったわ」
「でしょー?良かったらまた貸すっスよ」
「マジで?サンキュ」
隣のクラスの青峰が手に持っているゲームソフトを黄瀬に手渡している。青峰も黄瀬も、そしてテツナもバスケ部だ。テツナは青峰とは親しかったが、黄瀬は入部したてということもありそんなに親交を持ってはいない。だから、ますます憧れが増すのかもしれない、なんて。
テツナは仲良さげなふたりの様子をぼんやりとみていた。ちらり。あ。
「あ?テツじゃん、おまえ眠そうだな」
青峰くんと目があった。そう思ったときはもう遅かったか。青峰は既にこっちに向かって来ていて、それに気づいた黄瀬がこっちを見ていた。そういえば黄瀬くんはは私を認識しているのだろうか。名前は知っていてくれてるのかな。少なくとも今は私を見てくれている。それが、凄く嬉しくて、そんなことを考えている自分に驚いた。
「テツ、お前数学の課題貸してくんねえ?」
「何言ってるんですか。だからアホ峰って桃井さんに言われるんですよ」
青峰の頼みをテツナが軽く一蹴したところで黄瀬はおずおずとこっちに来た。目が合った。ドクン。心臓が途端に暴れ出して、まるで喉元が搾られるような感覚に身をよじりたくなる。苦しい。
「出来れば俺にも見せて欲しいっス!黒子さん」
ごめんね。そう言って申し訳なさそうに眉尻を下げる彼に、肯定を示すことしか出来なくなった。美貌とは人を可笑しくさせる。
 
なぁ、黄瀬。呼びかけられて黄瀬は振り向いた。数学の授業中。テツナの隣の隣の席の男子が黄瀬を呼んだ。見てこれ、珍回答。え、なにこれ可笑しい。くすくすと笑う黄瀬をつい癖で見てしまっていた、それが悪かった。今日初めてまともに彼と会話が出来たという喜びもあってのことだろう。集中出来ない授業中。左斜め前45°で、黄瀬は、その呼びかけられた友達が落としていたらしい消しゴムを拾った。たかがそれだけ、それだけだが。
…人というのは不思議なものだ。人間、いい所を見つけるとその人そのものが優しく思えてしまうのだ。
テツナにとっての黄瀬は、落ちているものを拾ってあげられる魅力的な人になった。心が跳ねる。煩い。まるで、これは。
テツナは自覚した。これは、恋だ。私は彼に恋をしたんだと。妙にしっくり、すとんと心に収まったその気持ちを、テツナは不思議と不快だとは思わなかった。

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