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□カモミールの香りは君を連想させるから
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お気に入りのカモミール•ティーは温かくて私を癒やしてくれるけど、何かが足りなく感じるのは、きっと気のせいではない。例えば、いつも左肩に有る筈の温もりが無かったりすることや、やっぱりテっちゃんの煎れてくれるカモミール•ティーが一番美味しいと笑ってくれる言葉が無いこととか。つまりは隣に高尾くんがいないことがひとりのティータイムの寂しさを助長させているのだ。
 
[カモミールの香りは君を連想させるから]
 
今日から3日間の出張なんだとテツナの額にリップキスを落として寂しそうに眉尻を下げた。高尾はテツナを連れて一緒に行きたい、とこの出張が決まってから常々口にしており、テツナからでさえ「子供じゃないんですから…」と呆れられる始末だった。
でも…、とそれでもなお粘る高尾に苦笑してはいるものの、テツナも実は彼と離れたくないと思っていてやはり似たもの同士だなあと内心喜ぶ。偶然であれ好きな人と同じ思考回路をしていたというのは何歳になっても嬉しいものだ。
たった3日ではあるがその3日がキツい。寂しいし、心配だし、会いたくなってしまう。カモミールの爽やかな香りを嗅ぐ度に彼の枕を抱いては深呼吸する。目を瞑ると脳裏に浮かぶのは自分に向かって微笑っている愛しい彼で心が知れず暖かくなる。まるで禁断症状のようだと苦笑してしまう。
「…はやく帰ってきてくださいねー…」
誰にでもなく呟くテツナの言葉にまるで返事を返すように腹の内側から蹴られた。それに微笑み、ポンポンと腹を優しく叩いてやる。慈愛に満ちた表情は、たとえ誰かが見ていても幸せそうな若奥さんにしか見えなかっただろう。
「…一緒にパパを待ちましょうか」

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