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□生理痛のはなし
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このまま死ぬかもしれない。焦点の合わない目でぼーっとしていると不意に視界に入った真紅のそれに目を奪われた。ふわふわとしていた意識の中で、少しだけ、孤独に面していた気がして怖かったから、それに思わず手を伸ばしてしまった。ホッとしたのだ。つまりは、会いたかったのかもしれない。気付かないうちに、私は彼を求めていたのかもしれないし、いなかったのかもしれない。実のところは自分でもわかっていなくて、でも多分きっと、この人は私の気持ちなんてお見通しなんだろうなあ、とは常々思っている。赤司くんは人の感情だとかを見抜くのが得意なのだ。それは羨ましい能力のような気もするけれど、負のところもあるよ、とこの前彼は苦笑していたし、確かにそれはつまらないかもしれない。それに、感情といっても何となくであって、それに推測を重ねるのだから正確ではないらしい。
兎に角、テツナは赤司の手首を掴んだ。テツナがその行動をすることをきっと彼は気づいていたのだろうし、そのうえで掴まれたのだろう。ぱちぱち。わざとらしいまばたきをした赤司をテツナは一瞥した。
「ん?どうした?テツナ」
「…………なんか、イラつきます」
刹那、きょとんと目を丸くしたものの、すぐに微笑ったその美しい顔を見てますますモヤモヤが募る。…なんだか、悔しい、し。
イライラしているのは自覚している。原因もわかっている。貧血気味なのはそのせいだし、下腹部の鈍痛だとかも全部。テツナは毎月生理痛が酷いタイプで、痛み止めを服用してどうにか痛みをごまかす、といったサイクルをしている。今日はその初日で、痛みも最高頂にあった。痛み止めは二十数分前に飲み込んできたものの、まだ効果はない。
「薬は飲んだ?」
「…何の、ですか…?」
「………痛み止め。そろそろだろ?」
「……………………どうして生理痛だってわかったんですか…。ていうか何で私の周期知ってるんですか…」
「だってテツナはいつも痛み酷いだろ?」
「………」
確かに、毎回こうして彼に痛いだの助けてだのと訴えているのだから知っていても不思議ではなかった。テツナは隣に座った赤司に寄りかかりながら頷く。ひとりで痛みと戦っているときは心細くて死ぬかもしれないと思っていたけど、こうして隣に好きな人の温もりがあるとどうやら人は嬉しくなるらしい。心がほんわりとあったまる。色で表現するならば、さっきまでが藍色みたいな寒色系で、今は太陽のような暖色系だ。彼に撫でられている下腹部に、心なしか痛みもごまかされているような気さえしてくる。それは魔法の手だった。実際は薬が効いてきたということもあるのかもしれないが、私にとっては赤司くんのおかげだと思っているし、また、思っていたいのだとも思う。温もりが愛おしくて、今なら変に意識することもなく素直に甘えることが出来るのだ。痛いのは嫌いだけど、この一週間は案外嫌いではなかった。

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