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□蜂蜜とパン生地
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焼きたてのパン生地に輝く蜂蜜をトロトロとかける。
蜜色に光るそれは美味しそうだけど、あ、センパイの髪の色に似てるかも、なんて思ったら寂しさが増してきた。
今日、本当は2人で過ごす予定だった。
なのに、センパイは急に任務が入ったとか言って早朝に出て行ってしまったのだ。
ーー朝起きたときの、隣に温もりのないという言いようのない切なさはもちろんスクアーロ隊長に八つ当たり済みだ。
はぁ、と深いため息を吐いてみる。
そういえばため息って、一つ吐く毎に幸せが逃げるって言うっけー…
それじゃあミーは今日だけで、どのくらいの幸せを逃してしまったのだろうか。
「…もー、ベルセンパイのバカ…。…お姫様を待たせるなんてミーの王子失格ですー…!」
テーブルの上の皿の数はふたつ。
一緒に食べれたらいいな、と待つつもりでいたけどなんだかむしゃくしゃしてフォークを突き立てる。
トロリ。
割れ目に垂れていく蜂蜜は優雅で食欲をそそられた。
「…うーん。…食べちゃえっ!」
「イヤイヤ。ソコは待てよ」
「ふにっ!?」
一切れのパン(蜂蜜大量)を口の中に含もうとしたら腕を捕まれた。
あ、センパイの匂いだ。と頭のどこかで感じると、頭上ではもぐもぐ、と咀嚼する音。
ぐぬぬ、と首を後ろへ回すと先程蜂蜜に例えた美しい色が視界に入った。
しかし、どこか艶を帯びている。
それに、前髪は完全には顔を隠していなくて、開いている隙間からは射るような視線。
喉の少し下あたりが、まぁ、要するに胸が、心臓が引き絞られそうな感覚になる。
未だに視線ひとつでこんなになるなんて、まるで恋したての乙女みたいだ。
「…何、フラン。今日1日すねてたんだって?」
「……べーつにー」
「スクが任務先に電話入れてきたからさー。ししっ、アイツも急に王子に仕事行かせたこと後悔してたしなー」
「…そうなんですかー」
「で?すねたオヒメサマはずっと部屋でパン焼いてたんだ?」
「…いい休日でしたよー」
「そっか。でもオレはフランの王子失格したつもりはねぇよ?」
「っ!?…いはいいはい!!はなへはなへはほうひーっ!!」
ぐにー、と両頬をつねられる。
なにこれいじめ?
「一人でいじけてるのも超カワイーっつーかフランは何しててもカワイーけどさ。王子失格はいただけなくね?」
「んーんー!!はなへーっ!!」
「じゃあさっきの言葉取り消す?」
「んー!取り消ひますーっ………あれ?」
「ししし、アリガト」
ミーの頬から離れた手はそのまま耳たぶをさする。
さっきの独り言聞かれてたなんて、全然気づかなかったどころか、なんかすっごいバクバク心臓が煩い。
染まる頬を隠すようにそっぽ向くと後ろから抱きしめられた。
「すげぇあいたかった…」
耳元で艶っぽい男声で囁かれてびくり、と肩が跳ねる。
しし、とその様子を見たセンパイは嬉しそうに笑い…触れた唇は蜂蜜の味がした。
 
(蜂蜜を見て王子を思い出したとか…もうどうしようチョーカワイイこいつどうしてくれよう…!)

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