short

□秘蜜の恋の味は*
1ページ/1ページ

つまらない授業を、もう既に解き終わったプリントを前にペン回しをして過ごす。
幸い此処は最後列。
教師には比較的遠い為、普段は寝て過ごしている(前列でも全く気にせず寝ているが)。
教師はもう諦めているのか俺には目をくれるだけで注意なんてしてこないしまぁ結果的に夜に足りてない睡眠時間を確保出来ているのだからいいんだろう。
只今昼食一時間前。
理科の授業は基本的に理科室で行われる。
(…あー暇…。でもなんか今日は眠くねぇんだよなー…)
まさに暇を持て余している訳である。
幸せを一息で逃がし、机に身体を預けてみる。
机上の様々な落書きを突っ伏したまま眺めていると、一つ、綺麗な文字体のソレに、ふと興味は惹かれた。
 
〈暇ー〉
 
(…うわ、俺と全く同じ心情じゃん)
他の落書きは何かの漫画かアニメのイラストだったりするなか、そのシンプルすぎる、ストレートな短い感想があまりにも自分の心情とマッチしていたため目が離せなくなった。
(………――)
まわしていたシャープペンを右手に握りなおし机に向かう。
周りはテスト前ということもあり真剣にプリントと格闘している人が多数でシャープペンと机がぶつかるカリカリ、という音が鳴り響いていた。
――そこにひとつ、場違いな音が鳴る。
机とシャー芯が直接ぶつかり、摩擦を起こしながら鳴る鈍い音。
たった九つの音で終わったソレを満足気な表情で見、今度こそつっぷして眠気に落ちてしまった―――。
 
 
〈暇ー   ←オレも〉
 
*** 
 
今日も暇な時間が訪れる。
朝一番。理科。
しかし今日は朝っぱらからというのもあり、眠気はバッチリだ。
早速授業のはじめの挨拶を終えたところで寝ようかと机に突っ伏したところで、ふと意識が上昇した。
(…あ?コレって…――)
確か一昨日だったか。
あまりにも暇だったから退屈しのぎで落書きに落書きをしたのだ。眠れなくて。
だが――
(…やー、ショージキ返事が来るとは思わなかったわ…)
机上に書かれたソレを見て何秒か思案し、出してもいなかったシャープペンを取り出しこの前より少し長めに書くと、再び机上につっぷした。
 
 
〈暇ー  ←オレも  ←おおー。同志さんですかー  ←だって理科つまんねーし〉
 
***
 
昨日から1日経った今日。
理科の授業は昼食後。
若干期待してその位置を見ると新たに文字が書かれていた。
 
<暇ー  ←オレも  ←おおー。同士さんですかー  ←だって理科つまんねーもん  ←正論ですねー。原子なんてダルい…。眠くなるのは暖かい空気といいカンジの声量の教師のせいの筈  ←なんかジジイっぽい感想じゃん?てか原子ってコトは今二年?>
 
***
 
理科室の落書きを見る。
それは当然ながら理科の授業中の話だが、実はそれを読んで書くのが地味に楽しかったりもしていた。
少しやりとりしてわかった。
火曜日の理科の時間は落書きに返事が返って来ないこと。
だから火曜日の授業は普通に寝て過ごす。
そして、相手はどうやら女っぽいこと。
一つ下の学年らしいこと。
ノリがいいこと………とか。
 
理科室の落書きは日に日に増えて行った。
 
 
「最近理科の授業が楽しみなんですー」
唐突に放課後、一学年下の幼なじみと偶然一緒になり並んで下校していると発せられた。
「…へぇ。なんでだよ?」
実は前々から恋心を抱いている相手であって、今こうして並んでいても鼓動が激しさを増すのがわかる。
ー自分はパーフェクトキャラなのに…
好きな人に告白も出来やしない。
自分に嫌気がさしてこっそりため息をついて彼女を見る。
…最近評判のフラン。オレの周りにもコイツを紹介しろだのと煩いのが何人もいる。
(……フランは誰にも渡さないっつーの…)
決意を固めているとフランが空を仰ぎ見た。
「三年生の先輩と文通をしているんです。…文通、というよりは落書きにお互い返事を書いてる…みたいなカンジですけど」
「………え、??」
「なんだか妙に気が合うんですー。…これが恋なのかな??…何かベルセンパイ知ってたりしませんかー?」
「っあ!?え、…んー?…シラナイ」
…もしかしたら恋の相手のそのまた恋の相手が自分かもしれない…
なんて、ベルに言える度胸は残念ながら持ち合わせてはいはかった。
 
その代わり…
 
翌日の理科室。
いつもの机に書いてあったのは半日もせずに全校生徒に広まってしまったということは言うまでもない。
 
    好き
     From.ベルフェゴール>

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ