krbs short

□フランボワーズミラベルパンプルムース
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頬に入れたミルク飴は甘ったるくてどこか優しい。子供の頃はレモン味やソーダ味と言った爽やかなシュワシュワするキャンディが好きだった。今は疲れかな。酸っぱい味よりふんわりした甘みが愛おしい。
コロコロと舌で転がしながら狭い路地を歩く。歴史的な暑さだと騒がれた夏も9月を過ぎれば最早冬だ。あの熱気が懐かしい。別に夏が好きなわけではないが冬も好きなわけではないからこの寒さはこたえる。
ーーーーー冬生まれなのに。
赤い毛糸で編まれた手袋で包(くる)んだ指先がそれでも冷える。悴んだら大変だなあと指先を口元に持ってきてはー、はーと息を吐きかける。ほんのりとした暖かさが心地よい。

テツナは秋が好きだ。枯葉の季節。街路樹が紅葉し始めると気分も知らず高揚する。それなのに秋は去るのが早い。そこもまた魅力的ではあるが寂しいのは隠せない。
11月に入ろうかというこの季節は、昼はそれほど冷え込まないが朝晩は冬といってもいいんじゃないか、と思う。低血圧気味なテツナは寒い朝ほど嫌いなものはないのだ。

駅から歩いて10分。大通りから一本外れた裏路地は薄暗い。日陰なためか寒さを倍増させている気もする。夏は涼しくていいのだが冬は少し怠るい。
だけどこの道は職場へ行く唯一の道。
薄暗い路地にあるお店こそが私の夢が詰まっている場所なのだ。
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