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□彼女は無為に笑う
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桃井さつきは太陽だ。
いつも人の環の中心にいては、その巧みな話術で周りを盛り上げる。その美貌は人に羨ましがられ、憧れられ、さらにその人当たりの良い性格から異性はもちろん、同性からも好かれやすい。太陽と形容しても、違和感は全く無いくらいだ。
黄瀬にとってさつきは、同じように見えて何かが根本的に違う。黄瀬もさつきと同等に―――見方によってはそれ以上に美しいのだが、彼はもてはやされることに慣れ、疎まれることにも慣れ、疲れ、人との間に薄く……しかし、決して越えられない程の高い壁をつくった。だから黄瀬は、心を開かないと基本的に態度は悪い。笑顔ではいるものの、相手のことなど全く眼中にないのだ。
黄瀬は今までずっと、桃井もこっちサイドの人間なのではないかと思っていた。話したことがなかったから、完全なる見かけの判断にはなっていたものの、だからこそ、自信があった。あんなに綺麗で、目をひかれるのに、疎まれないわけがないと。
だから、さつきが慕われているのだと知ったときは、なんとも言えぬ感情があった。勝手ではあるが、裏切られたと感じたのも事実。
だから、ひょんなことから知り合いになってしまったときも、実はあまり好きにはなれなかったのだ。

「……ちゃん!……きーちゃん!起きて!」

頭上から聞こえてくる切羽詰まったような声は愛しい彼女の声だった。
自分の瞼はまだ自力で開けることは出来なさそうで、すう、と息を吸う。すると、嗅ぎ慣れた香りが鼻を擽った。
「……ん、オハヨ。どうしたんすか、桃っち」
「きーちゃん目が開いてないよ!」
「……眠い」
「起きてよ……!」

「朝からさつきに起こしてもらうのか。いいご身分だな、涼太」

ドアが軋む音がしたと思ったら、聞こえてきた声はここにいるはずのない人の声だった。
「――え、赤司っち!?」
「久しぶり、涼太」
脳内で上がった可能性に思わず起き上がってベッドの上に正座をすると、眼前にいたのはやはり、他でもない彼だった。
しかしその立ち位置が可笑しい。
――赤司っちは桃っちの肩を抱きながら、俺を見下ろしていた。
「ちょ、ちょ、ちょ!赤司っち!?桃っちから離れてよ!」
「じゃあ早く起きろ。……他のやつらも下で待ってるぞ」
あっさり桃っちの肩から手を離した赤司は口元に柔らかい笑みを浮かべてそう言うと、スタスタと部屋から出ていった。
残されたのは黄瀬と、起こしにきたさつき。
にこにこと楽しそうに笑うさつきを見て、ああ、きっと下には懐かしい仲間がいるのだろうと黄瀬も自然と笑顔になった。




「――それでは、涼太とさつきの結婚を記念して、乾杯!」

下に行くと寛いだ様子の青峰がいて、
ちゃっかり新聞を読み耽っている黒子がいて、
毎度ながらお菓子を頬張る紫原がいて、
台所で何かしている緑間がいて、
スマホを弄る赤司がいた。
来るなんて一言も聞いてなかったっす、と唇を尖らせると「サプライズだからね」と返されてちょっと嬉しくなった。

俺、黄瀬涼太は、桃井さつきにプロポーズをして受け入れて貰えた。

まだお互いの親に正式な挨拶はしていないし、入籍もしていないから結婚、ではなくまだ婚約止まり。
しかし、今までも普段からお互いの家を行き来し、一緒にご飯とかも食べてるから正直今さら反対はされないのではないか、と思ってはいる。
少なくともうちの親には反対されるわけがない。うちの親は普段から「はやくさつきちゃんを嫁に連れてこい」と言ってきていたからだ。
俺は、片思い期間が長く、もう彼女に恋して10年はたっているわけで、今更桃っち以外の人と結婚を考えられる筈もなく。プロポーズの言葉とか凄い良く考えて、レストランも先輩とかに聞いたりして頑張った。そしたら肝心の本番で噛んでしまったけれど受け入れてもらえて、思わず涙したのを覚えている。情けないとは思うけれどそれだけ彼女のことご好きなんだっていうこと。

桃井さつきは俺の太陽だ。
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