krbs short

□彼女は無為に笑う
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彼女の泣き顔は綺麗だった。

「大ちゃんが、怖いの」

俺のTシャツを握りしめて涙を懸命に堪える姿はまるで小動物のようだった。
(――どうしてこんなに、この人は)
他人を想って、泣けるのだろう。

どうして自分と同じだと思っていたのだろうか。
勝手に期待して、勝手に裏切られたと思って、勝手に傷ついて。
俺は、馬鹿だ。

俺なんかとこの人は、全然違う。

青峰っちがうらやましい、と素直に思った。
こんなに素敵な幼なじみがいて。
同時に、青峰っちがその大切さを感じていないことに憤りを感じた。
どうして、青峰はさつきの大切さに気づけないんだ。
それは、隣にいるのが当たり前になっているからだろう。黄瀬は青峰がうらやましかった。
バスケも出来て、隣には当然のようにさつきがいて。
もう10年も劣等感というものを抱き続けてきたのだ。
だから。



「黄瀬、おめでとう」



青峰のその言葉が、黄瀬に現実感を持たせた。
――本当に俺、結婚するんだな。
隣にいるさつきをぎゅうう、と抱き締めて、幸せを、噛みしめた。
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