krbs short

□王子様にはなれないけれど、
3ページ/6ページ

「はぁ!?テツと別れたぁ?」
東京のスパンコールがキラキラと光る高層マンションの最上階からの眺めに酔いしれていたさつきは、背後での幼なじみの突然の大声に肩を震わせた。久しぶりの青峰帰郷に、黄瀬が強引にオフを合わせて青峰を自分のマンションに招待した。その話を耳にしたさつきが、いいなあ、私もきーちゃんと久しぶりに話したいのにーとぐちぐち青峰に言っていたらそれを黄瀬に伝えたらしい。「よければ桃っちもどうぞ」と、かかれたメールが黄瀬から直接送られてきたときは思わず嬉しくて青峰に見せびらかした。「黄瀬もさつきに甘いよな」と言いながらもなかなかに見せない笑顔を向けてくるあたりが彼を嫌いになれない理由だとさつきは思っている。青峰は高校卒業と同時に渡米したから、会うのは年に1、2回だが、腐れ縁はいつでたっても切れないものだ。青峰が日本にいる間はほぼ毎日お互いがお互いの家に入り浸っていた。だからさつきは、青峰の色々なことを知っている。反対に、青峰もさつきの色々なことを知っている。例えば、さつきの好きなひと、とか。
さつきは、高校…下手すれば中学の頃からずっと黄瀬が好きだった。そしてさつきは、黄瀬の彼女と親友だった。だから。さつきは外見に惹かれて寄ってくるような男と沢山付き合った。黄瀬を忘れる為。親友を裏切らない為に。脇でずっと見てきたからわかる。さつきから注がれる黄瀬に対しての愛情は、自分の相棒兼黄瀬の彼女からの黄瀬に注がれる愛情とさして変わらないことに。
さつきは演技がうまかった。それは、隣にいる青峰が舌を巻くくらいに。彼女はテツナと黄瀬を応援して見守ってサポートして。良い親友、仲間を演じて。家に帰ってから自室に籠もって啜り泣くのだ。さつきは、強がりだった。
青峰に涙を見せたのはただの一度きり。
黄瀬と、テツナが付き合い始めたその日だけだ。
「…もう、諦めるから。心配しないで、大ちゃん」
頑張って笑ったのだろう笑顔は。
今まで見た中で一番美しくて一番悲しかった。
良い女だ。黄瀬には勿体無いくらいだと青峰は思う。青峰もまた、黄瀬の親友であってテツナの相棒であってさつきの一番の理解者であった。全員が大切で全員に幸せになって欲しいと思うし、だからこそ無理してつくられたさつきの笑顔は痛々しくて見ていられなかった。
だから、今。
青峰は驚愕を受けた。あんなに愛し合っていた二人が別れた。黄瀬は淡々と事実だけを述べた。感情は一切言わず、眉間に皺を寄せて。
ちらりとさつきを盗み見ると、その細い肩をさらに縮こませて窓から目を離さないでいた。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ