magi

□1
1ページ/1ページ

時が過ぎるのが早い気がする。
心臓が脈打つスピードがいつもと違う気がする。
 
「おまえ、好きな人いんの?」
 
手が、触れそうだな、と思ったときだった。褐色の大きな手が私の頬を包み込んだ。いつも剣を握っている彼の掌はザラザラしていて、かたい。それでもどこか、中毒性があるのかもしれない。離したくないような、離れたくないような。心臓が痛いような苦しいような、兎に角異常だった。……………だから、私は 
 
シャルルカンが嫌いなんだ。
 
 
 
 
 
「いる、って言ったらどうするのよ」
「へー、ってなる」
「……………」
好きな人は、未だによくわかっていない。年上で髭が生えているような、大人な男性で出来れば魔法が好きだったらいいなあ、とくらいは思っているけれど、だからと言って、好きなのは誰かと聞かれたらん?と迷うくらいに曖昧だった。これが普通の恋愛なのかな、とは思わないこともないが、そもそも自分はそんなに恋というものに積極的になるタイプではないから興味かないといえばそれまでだった。
逆にシャルルカンは恋に敏感だったと思う。幼い頃から好きな子を鍛錬場に連れて行っていたし、女性と付き合ったことも何度かあった。そういえば最近(ここ二年くらい)シャルルカンが彼女を作ってないな、とふと思った。だからといってヤムライハには関係ないのだけど、一度思うととことん研究したいタイプだからか、す、と隣に座る男を覗き込んだ。再び異常が起こる心臓はこの際無視だとばかりに自分の頬に置かれた掌の上に自分のそれを重ねた。
 
「シャルは?」
 
ドキン、ドキン。
 
まるで耳から響くように直接鳴るうるさすぎる早鐘が重なった手を通して聞こえてしまうかもしれない。シャルならわかるかもしれない。私が少々感情というものに疎いのは自覚済みだ。
 
「……………いるよ」
 
好きな人。そう言って笑った彼は、なんだか少し寂しそうだった。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ