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□チョコレートの苦いところ
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今日ははやく仕事を終えた。今日は電車の気分だとか言って車に乗らずに帰ってきてみた。この時間だとラッシュ時に重なって渋滞するだろうという判断からだったが乗車したときは既に後悔していた。成程。これが満員電車かと一社の社長に若くして抜擢されあまり電車に縁のなかった赤司は驚いた。少し離れてはいるものの、視界の隅に見覚えのある水色の髪が目に入ったのだから。シュシュで一つに束ねられているふわふわな髪はきっと下ろしたら腰まであるのだろう。そういえば僕が付き合っていた頃はボブだったなあと思うと時の流れを感じた。
別れを切り出されたときは納得出来なかったものの、時もたつと次第に恋心も薄れる。今では会社がとても忙しくて彼女のことを思い出すのなんてマジバの前を通ったときくらいだ。
彼女は赤司とは反対の方向に向いていて、この混雑さでは振り返ることは無理だろうなと後ろ姿を眺めていた。すると、彼女の背後におじさんが寄っていたのがわかった。ー痴漢だ。そう判断してからの彼は速かった。迷惑そうな表情をする乗客を押しのけ2人に近づくと男の健康骨あたりに肘をあててやる。ゴスッという鈍い音と痛さにあがる悲鳴。テツナに触れていた手がスカートから出てきて、コイツはテツナを触ったんだと改めて認識すれば怒りがふつふつと湧き出てくる。今度は股間に膝蹴りでもしてやろうかと目を細めるとくたりとテツナが赤司に寄りかかってきた。
「…テツナ?」
細めた視線の先を男から腕で受け止めている彼女に移動させると視認したのは一筋の涙。気絶したのかと理解すると同時に彼女をここまで恐怖に陥れたこの男を絶対零度の冷徹な目で睨みつける。相手はすっかりびびったのか恐怖の入り混じる目で赤司を見上げていた。こいつ殺してやろうか、と冗談でなく思いかけたところで駅についた電車が扉を開けた。
とりあえず降りるかと人混みから出るとすぐに電車は去っていってしまった。
 
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