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□聖夜、囁く
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白いタキシードを感慨深く見つめる。
クリスマスに結婚式を挙げたい、と提案したのは彼女だった。恋人達のクリスマス。わざわざそんな日に挙げたら来てくれる人達が迷惑なんじゃないか、と思ったが可愛くて仕方のない彼女の願いを無下にすることも出来ず、尊重した。基本溺甘なのだ。
ようやく、この日が来た。窓の外は薄く積もった雪がきらきらと光を反射している。まるで祝ってくれているようだと柄にも無く思う。
思えば、長かった。
初恋は中学二年の時。バスケ部のマネージャーをしていた彼女に捧げた。でも、その彼女は既に意中の人がいて。当時から多数の女子に告白されては取り巻きもいた自分が片思いをするなんて思ってなかった。
他人を見つめる彼女を見るのがつらくなかったか、と問われればつらかったに決まっている。だけど、恋をしてしまった。叶わない恋がつらくて高校は違うところを選んだが、結局、その思いは消えることなく、今の今まで続いていて、そしてこれからも続くのだろう。
コンコン。ノックの音と共に入ってきたのは懐かしい顔だった。
「…青峰っち」
「…よぉ、黄瀬。まさかお前が結婚するなんてなぁ。…しかもアイツと」
青峰は窓のそばに立つ黄瀬を一瞥して椅子に座る。
振り返った黄瀬を見て、目を細めた。
「…俺も、びっくりしてるんス。…プロポーズしてからは眠るのも怖かった。ー…起きたら全部夢だった、なんてオチだったらどうしようって。情けないっス」
「確かにな。…そういえばお前、ずっとアイツのこと好きだったっけ」
「なんで…」
「バレバレだったっつーの、俺等にはな」
何年一緒にいると思ってんだよ。そう言って薄く笑った彼を見て、…そうかと思う。
なかなか彼女には通じなかった俺の気持ちもキセキにはお見通しだったのか。
「…黄瀬」
「はい?」
椅子から立ち上がった青峰は黄瀬の隣に並んで窓の外を見た。つられて、黄瀬ももう一度外を見る。
「…アイツを、幸せにしてやれ。泣かしたら殴る」
「…青、」
「俺はお前を認めてる。お前になら、…黄瀬になら、さつきを安心して任せられる」
「……」
「おめでとう」
青峰は笑って、涙ぐんでいる黄瀬の肩を軽く叩き踵を返す。
カツカツと響く皮靴。青峰が扉を開けてもう一度振り返ると未だ涙ぐんでいる黄瀬を見て眉を潜めた。
「…なんて顔してんだよ」
「…青峰っちに、認めてもらえるなんて思ってなくてっ。アンタは、出会ったときから桃っちの一番近くにいたし、俺の憧れで、だから…」
「………バーカ」
呆れたように笑う青峰にぐ、と台詞を遮られる。青峰は扉の隙間から廊下へと半分出て、言った。
「とっくの昔に俺はおまえを認めてる。…あ、そういやさっきさつきに会ってきたけど、アイツもおまえみてーなこと言ってたな。夢が覚めたらどーたらこーたら。…結局似たもん同士じゃねーか。あと、マスコミうぜぇんだけど」
パタン。
閉まった扉を黄瀬は見続ける。…ああ、ここまでくるのが長かった。新婦の控え室で彼女も同じことを思っていたのかと思うとはやく会いに行きたくなる。
「…新郎様は、こちらへ」
係員の人に案内されて式場に入る今、思うことはひとつだけ。このうえないくらいに、幸せだ。

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