short

□最近寒いね。
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去年買った手袋は片っぽしか見つからず、通学路が切ない。だからと言って片手だけ嵌めるなんて間抜けなことも出来ないから指先はいつも真っ赤だ。
とうに冬。つい昨日は秋だったような気がするが時間はたつのがはやい。もう年賀状書き始めなければ。僕はメールよりハガキ派なのだ。
はーはー。すっかり体温を失った指先に息を吹きかける。自分の息に含まれている水蒸気が露点に達して水滴に戻った。ぶるぶる。一時の温かさの後尚更冷える。あー、くそ。今日こそ手袋買って帰ろう。強く心に決め、ポケットに手を入れてなんとか寒さを乗り越えようとしたかった(過去形)。ぐい。結果的に僕の手がポケットにおさまることはなかった。僕より幾分か大きい手に掴まれたからである。
「…おはようございます、黄瀬くん。手離してください」
「………黒子っち、冷たい」
「寒いですもん」
「いや、そうじゃなくて…まあいいや」
白い光に照らされた金髪は随分と主張をする。目が痛い。掴まれた手首も痛い。二人揃って改札を通りホームへと降りる。左手の体温は何故か暖かい。彼の温もりが左手を通して伝わってくるから。二人並んで電車を待っているけど寒くないのは繋がれた左手が彼のジャケットのポケットに入っているから。青春宜しくうるさい鼓動が耳に心地良い。
 

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