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□寝癖のはなし
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どきどき、どきどき。
さっきからもう三十分くらいずーっと息苦しさと戦っている。
…だって、なんか心臓が体内で暴れてるから。
 
【寝癖のはなし】
 
今日は黄瀬くんが僕の家に来ました。
なんだか最近仕事が立て込んでいるらしくて疲れた〜とか会いたいっス〜なんて、いつもと大して変わらないノリでメールが来て。
ああ、そういえば最近会ってないなぁ、とか
ぎゅってしてないな、とか
彼のことを思い浮かべたら会いたくなってしまい。
じゃぁ、僕の家に来ませんか。って緊張しながらメールを打ったのは確か一昨日だった。
そこからはさくさくと話が進み、こうして今日約二週間振りに会えることになったわけなのだけれど。
「…きーせーくーん?」
「……」
爆睡。
ふたりでソファに並んで座って駄弁っていたら突然の寝息。
すー、すーとリズム良くなるその音に驚きが隠せなかった。
「…――え。まじ寝ですか…」
そりゃ、最近の黄瀬の仕事っぷりはメール越しでも目を見張るものがあったし、実際雑誌コーナーなどではその端整な顔が表紙となっているものがたくさん並んでいた。
――いた、のだが。
「せっかく会えたのにー…」
仕方ないな、とは思いつつも少しばかり起きてほしいなぁとか思ってしまっている自分。
でもそんな自分の都合で起こすことは出来ないし、何より彼の体調が崩れるよりは何百倍もいいのだ。
んー、とひとり唸っているとぽすん、と肩に軽い衝撃。
「?」
なんだろう、と目をやるとそこには気持ちよさそうに寝息をたてる黄瀬がいた。
「…黄瀬くん。その格好痛くないんですか…」
「んー……」
身長差ゆえに自分より何十cmも低い黒子の肩に頭をのせるのは至難の業のはずだ。
ぽんぽん、とそれを叩けば寝ぼけたような(というか寝ている)返事が返ってくるだけだった。
「……。…――おやすみなさい、黄瀬くん」
少しだけ思考し、自分も寝ることに決めたのか今は自分の肩にある黄瀬の頭をさらと撫でて、黒子も眠りについた。
 
「…――ん、んー?」
黄瀬が起きたのは黒子が寝てから実に一時間たった頃だった。
起きたばかりで働かないあまりよろしくない頭を回転させようと試みる。
――あれ、そういえばここどこだっけ――?
―――あ、黒子っちの家だ―――
――――黒子っちの、家――――?
「…あっ!ああああああああっ!!」
そうだ!今日は三週間ぶりのデート!
せっかく黒子っちが自ら家に誘ってくれたのに―っ
「ご、ごめんっス!黒子…っち…????」
勢い余って立ち上がろうとすると自分の肩に何か違和感を覚えた。
「??」
そっと見れば、水色。
自分の肩に頭を預けた、愛しい恋人が寝息をたてていた。
「…あれー?寝てる??」
すー、すーとキモチよさそうに眠る黒子の目前で手を振る。
反応は無い。
「…それにしても」
可愛すぎるだろ、と自然とにやける口元を押さえる。
オレに寄りかかっているこの格好も、きちんと瞑られた瞼も、…そしてなにより。
「寝癖??」
ぴょこん、とさりげなく跳ねた髪。
まるで猫のようだとその髪を優しくふわりと撫でた。
「ンー…」
夢の世界でも気づいたのか、いつもより少しばかり高い声を出して再び寝息を立て始める。
一連の動作に黄瀬はとうとう、口元を隠すこともやめてしまった。
(どうせオレだけだし…いっか)
ああ、可愛い可愛いとその小柄な身体を自分の膝の上に持ち上げる。
このうえないくらいにぎゅううう、と抱きしめると腕の中の彼は嬉しそうに微笑んだ。
 
 
(す、すいません黄瀬くん…!いつのまにか寝てしまってたみたいで…)
(いいっスよ。おかげでいいモン見れたしね)
(??)
 

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