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□可愛すぎるのが悪い
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「あれ?黄瀬くんじゃないですか」
今自分を覗き込んでいるのは確かに黒子っちで。
今は別にいつものように彼に会いに来たわけでもなく。
ただ純粋に「最近シューズ磨り減ってきてるかもなぁ」とか思って専門店に寄っただけである。
決して、決して奇遇を装っているわけではない。
…――それはつまり。
偶然なわけで。
「運命?」
「なに言ってるんですかばかですか本当」
「酷い!!」
新品のシューズが入った箱の入ったビニールを手に真剣にそう言ったらあっさりきられた。
…相変わらずつれない。
……。
あれ?なんか、そういえば違和感が…?
ん??…??
―――あ。そうだ。
「それにしても…黒子っち一人?」
「はい?」
なんか違和感がわかった気がして問いかける。
返事はなんだか疑心紛れでもしかしたらオレが何かするとでも思ってるのだろうか。心外だ。
「…あ、いやあの、ほら。…黒子っちっていっつも誠凛の皆さんと一緒じゃないっスか…!?その、…特に火神とか」
「…ああ、今日は部活はお休みなので」
「なるほどっス」
だから黒子っちひとりなのか―――…!!?
って、なに言ってんのオレェ!?
なんで周りに火神がいないと違和感感じてんの!????
火神いるとキョーレツに嫉妬するくせに?
馬鹿なのか!?
オレ、馬鹿なのか!?
「はい。少なくとも僕はそう思ってます」
「―――――へ?」
心の声になぜか返事が返ってきて首を傾げる。
あれ?オレの聞き違いっスかね?
ないとは思いながらも一応黒子っちを確認すればバッチリ目が合った―――。
…え?
「あり??…どうしたんスか黒子っち。そんなにオレのこと見つめちゃって」
「…もしかして黄瀬くん。今の、…僕に聞えてないとでも思ってるんですか?」
「え」
え、え??
声に出してたんスかね?今の。
確認するために黒子っちを仰げばこくり、と頷かれた。
「――はい。丸聞こえでした」
「嘘ーっ!!」
また好きな彼にへタレなところを見せてしまったとショッキングな事態に絶句すると、クスクスと笑い声が聞えた。
なんとはなしに顔をあげると其処には、ほわわんとした柔らかそうな笑みを浮かべた彼。
(黒子っちが笑っ…!!)
「黄瀬くんは、ほんとうに面白いです」
「違うんスよ今のは!言ってるつもりは無かったっていうか寧ろ心の声になるはずだったっていうか…!!」
「はい。だから面白いです」
「黒子っちぃ〜」
「だって…」
黄瀬くん、火神くんに嫉妬するって言いましたもん。…嫉妬なんて、必要ないのに。
(――――っ!)
すたすた、と呼吸までも止まったオレをさっさと置いて店内から出て行ってしまった黒子っち。
追いかけたいけど咄嗟に足が動かなくて困る。
「…――へ?」
嫉妬なんて、必要ない…?
それって…
「―――――――!!!」
その言葉の意味に気づいてにやける口元を押さえてその場にしゃがみこむ。
え、だって、だって、だって―――っ
「もう、恥ずかしいからそんなとこに座らないでくださいよ…」
「――黒子っちは、オレのこと好き?」
「…何いきなり変なこと言ってるんですか。ばかですか」
「えっ!?違うの…?」
「…」
さっき僕が言ったこと、思い出してください。
そう言ってそっぽ向いて歩き始める彼。
――綺麗な水色の髪の隙間から見える耳は、真っ赤に染まっていた。
じゃあ、やっぱり――…
「黒子っち大好きっス!」
「街中でなに言ってるんですか君は…」
走って隣に並んで覗き込めば、真っ赤な顔でそっぽ向いたまま、だけど満更でもないような表情。
ああ、可愛い…!
ぎゅう、と力いっぱい抱きしめれば痛いから離せ、と非難の声が腕の中から聞えてきた。
 
【可愛すぎるのが悪い】
 
(黄瀬くんの言動にはいつもドキドキさせられてばっかりですからたまには…ね)

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