APH

□零したアイスから始まる…
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三題噺:『喫茶店』『学生』『零れたアイス』



























べちゃ


「………。」

「あーーー!!菊!何やってんだい!?」


ある夏の日。

いつも通り学校から帰宅途中だった本田菊は行きつけのアイスクリーム屋の車の前に来てアイスクリームを買った。

いつも車の通りが少ないところをウロウロしているカラフルで目立つ車はアルフレッドが経営している屋台のようなアイスクリーム屋だ。


そして夏になれば菊は熱さに耐えきれず財布から小銭を取り出しアイスクリームを買っていた。

しかし今日の熱さは異常だった。
温度も湿度も高いため、ジメジメして頭はボーッとしてしまい菊はアルフレッドから渡されたアイスクリームを誤ってワイシャツにベッタリと零してしまった。

アルフレッドはカウンターから身を乗り出しボーッとしている菊の顔の前で手を振った。

「ハッ!私は何を…!って、ああ!ワイシャツが!」

「ふぅ、やっと気づいたんだぞ。君がボーッとしてるからせっかくのアイスを零したんだ。ちょっと待って、今ティッシュを…」

「これくらい大丈夫です…」

ワイシャツに付いたアイスは溶けてピンク色の染みを作っていく。
菊は染みた部分を肌にくっ付けないようにワイシャツを指で摘まんだ。

「でも染みは残っちゃうと思うんだぞ?」

「…それは痛いですね。」

出来ることならワイシャツは捨てたくない菊は自分のアイスが染み付いた胸元を見た。
早くしないと染みは残ってしまうだろう。


「あ…」

「どうかしましたか、アルフレッドさん?」

しまった、という表情でアルフレッドは一瞬固まってすぐに手をパンっ、と合わせて菊に謝った。


「ごめんよ菊!」

え?と菊は首を傾げる。

「ティッシュ………切れてた。」

「……、あー…。」

間の抜けた声が出て、それから大丈夫です。と言って零れたアイスに視線を落とす。

地面に落っこちたアイスクリームはすでにこの熱さで溶けてしまい、数分もすれば乾いてしまうだろう。

だけどワイシャツはダメだ。
早く染み抜きをしなければ跡が残って学校に着て行けなくなる。


菊は辺りをキョロキョロと見回してある店を見つけた。

「あ…」

菊の見つけた店は喫茶店で、茶色の可愛らしい木で造られた店だった。
窓から見える内装は十代女子が好みそうな花の飾りがあり、外には白いベンチがパラソルの下にちょこんと置いてあった。

「私、ちょっとあのお店の人にティッシュ貰ってきます。今は丁度お客さんもいないみたいですし…」


菊がいる歩道とは反対側にある店を指差してアルフレッドに告げた。

アルフレッドは顔を歪めて、

「あの店はやめたほうがいいと思うけど…」

と、店を見ずに答えた。

「それに、もうすぐで女の子たちも来るだろうし…菊はそーゆーの苦手だろ?」

「まあ…でもこのままじゃアイスが…」

「んー、まぁ…ちゃっちゃと行ってくるのがいいかもしれないんだぞ。とにかく長居はしない方がいいと思う…」

「?」

菊はよくわからないが頷いて道路を横切って向かい側の歩道に行き、喫茶店の木製の柵を超えてドアを開いた。
カランカランとよくある鈴の音を鳴らしながら恐る恐る喫茶店に入り辺りを見回した。

窓から見えた通りに壁には花やら絵画やらが掛けてあり雰囲気がある。
入ってすぐ目の前にあるカウンターと窓側に沿ってテーブルがいくつかあるだけ。

花の香りと紅茶の香りが混ざり合った匂いに菊は目を細めた。


「なんだ、客か?」

ひょこっとノレンをくぐってカウンターに出てきた金色の頭。

なんで喫茶店にノレンなんだ、と菊は疑問に思ったが下手に詮索するべきではないと思い笑顔を浮かべてこんにちわ、と言った。

赤い生地に金の装飾が施されたノレンはある意味で目立っていた。

それに厨房で何かを作っていたのか焦げた匂いがして菊は眉間にシワをよせる。

「お、おぉ…こんにちわ。」

少し照れたように目を逸らしてぎこちなく挨拶した金髪の男はすぐに菊のワイシャツに目がいった。

男が何かを言う前に菊は言った。

「すみませんがティッシュを貸していただけませんか?アイスを零してしまって…」

菊が困ったようにそう告げれば男はささっとティッシュを取り出した。

「ちょっと待て、濡れたタオルも持ってきてやるから。」

「ありがとうございます。」

男は厨房に消えて数秒で戻ってきて新品の濡れたタオルを持ってきて菊に渡した。

とんとん、とタオルで染み抜きをする菊を男は凝視し、菊は視線に気付き顔を上げた。
パチリと視線があって男は菊から目を逸らした。

「?」

「そ、そのアイス…アルフレッドのか?」

「え?あぁ、アルフレッドさんをご存知でしたか…」

「まぁ、な。」

ぎこちなく会話する男を菊は口下手なのだろう、と解釈して染み抜きを続けた。

「それ、湯につけた方がいいんじゃねーか?そのままじゃヤバイだろ?」

「…そうですかね?」

「多分。湯につけてやるからそのワイシャツ…脱げ…」

「あ、ありがとうござます…」

なんでそこで顔を赤らめる。

菊は顔を赤らめてチラチラとこちらを見る男の前でワイシャツのボタンを外しながら思った。


「それは関節的にセクハラしてる的な?」

「「??!」」

おかしい日本語を話す青年が厨房から顔を出し、男の前でワイシャツを脱ぐ高校生という異様な光景を目にし、感想を漏らした。

「ち、ちがうぞ!これは違うんだからな!バカ!お前は引っ込んでろ香!」

「あー、厨房の後処理を俺に押し付けた眉毛店員が口答えする的なー?」

バカバカバカ!ばかぁ!と取り乱す男と香と呼ばれる青年を交互に見て菊は口をごもらせた。

「あの…脱ぎ終わりました。」

差し出されたワイシャツを見てから学校用のバックで上半身を隠す菊を見た。

「マジでこれ訴えるべき…」

はぁ、とため息をつく青年の隣で何故か顔を更に赤らめさせる男。

「変態眉毛店員アーサー・カークランドのセクハラ。」

「勝手に題名つけんじゃねぇ!」

バっと菊からワイシャツを取り厨房に消えて行った男、アーサー。
アーサーという名前なのか、と菊はぼんやり考えて香にジッと見られていたことに気づいた。

「これ、着て。いくら夏でも裸はいろんな意味でヤバイ的な。」

「えー…と、はあ…」

「よれよれなのは元々だから気にしないで的な…あと、結構時間かかるかも」

渡されたのは中華!とプリントされたヨレヨレのティーシャツ。

「(まさかあのノレンはこの方が…)」

着れば見た目通りヨレヨレで、しかも生地が薄い。

「メイドインチャイナ…」

「そうなんですか。」

わざわざ中国産ということを教えてくれた香は片手にティーポットを持っていた。

「眉毛店員ほどグットなものは作れないけど、一応喫茶店店員だしチャレンジする的な。れっつ!」

「お気遣いありがとうございます。」

「ノープログレム。」

無表情で紅茶を作り始めた香とカウンター席に座りそれを眺める菊。

チャレンジするといっても慣れた手付きでそれを行う香に興味津々の菊は目をキラキラさせた。


「おーい香、看板ひっくり返しておけー」

厨房から聞こえたアーサーの声に香は答えず、ひたすら手元を見ている。

そのかわりに菊が立ち上がり、店のドアを開けて掛っている看板をひっくり返しておいた。
見るとcloseと書かれていた。

「もう閉店してしまうのですか?」

「あー、ココは閉店時間とか決まってない的な。それに今日は厨房を破壊して結構大変なことになって商売どころじゃない的な。」

「厨房を破壊…!」

「あの眉毛店員、料理だけはマジカオス的な。」

「ご兄弟ですか?」

「What?まさか…!」

「とても似ていらしたので…眉毛が。」

「あの眉毛には負ける的な。」

菊は思わず笑ってしまい、香もフっと静かに笑った。

ティーポットからティーカップに注がれた琥珀色の紅茶は湯気を立て、上品な香りが菊の鼻をくすぐる。

くんくん、と嗅いで店の花の香りと混じり更にいい香りになったな、と菊は思った。

カウンターに置かれた紅茶を菊は眺め、香が頷くとそれを静かに取って、いただきます。と言って頭を下げた。

ティーカップに口を付けて砂糖もミルクも入れない純粋な紅茶を堪能する。
紅茶に詳しくない菊でも、この紅茶は良質なものだと分かったし、とても美味しいと感じられた。

自然と笑みを浮かべてティーカップの中を見つめる菊。

「とっても美味しいですよ!」

「サンキュー的な。メイドインイギリス。」

「イギリス産ですか。ん?もしかしてあの方はイギリス人なのですか?」

「眉毛店員は純イギリス人で一日五杯は普通に紅茶を飲む的な…」

「俺がなんだって?」

「あ…眉毛店員。」

ノレンを潜って現れたアーサーは腕まくりをして、濡れた手を腰に巻いたエプロンで拭いながら来た。

「んだとゴルァ?」

「菊さんの服はどうした的な?」

「菊さんだァ?誰だそりゃ…?」

「あれ?私の名前…」

名乗ってないのに、と言おうとして手に持っていたティーカップを置く。

香は菊を指差して、アーサーはその先を辿って菊を見つめる。

「本田菊。先生の…………先生の…」

「先生?王のことか?」

「Yes、先生の…義理の弟?」

「ちっ、違います!私に兄なんていません!王さんは…、ってアレ?王さんもご存知なんですか?」

アルフレッドといい、自分の知らないところでいろんな人が繋がっていたのか、と驚いている菊は目をパチクリとさせた。

「前に一度だけ先生に写真見せてもらって『我の可愛い弟あるよ!!』って…」

「それは王さんの勘違いですよ。近所だったので小さい頃によく遊んでもらっただけで。」

菊と耀は近所で年も近くよく遊んでいて、菊は耀からいろいろなことを教わった。

小さい頃の記憶が白黒で脳内に焼き付いている菊は、耀が乾いたカエルを持って笑っていたことを思い出して身震いした。

二つ年が違うだけで弟扱いされた菊は近所の人に兄弟?と聞かれる度にブンブンと首を振っていた。


「ま、俺は先生の後輩的な。んで、眉毛店員の同級生だったとかなんとか。」

「仲悪かったけどな。ちなみにアイスクリーム屋のアルフレッドは俺らの一つ下だったぞ。」

「そうなんですか?初めて知りました…出会って結構経つのにアルフレッドさんの経歴なんて全然…」

「ま、アルフレッドは表ではあんな子供染みたことやってるけど、…」




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