APH

□枯れない花 U
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耀の話しを聞いて俺は立ち尽くしていた。

耀の表情から読み取れる、菊の病状の悪さ。


肺結核という病気に詳しくない俺だって、それがどういう意味を持つものかを思い知らされた


一番辛いのは俺じゃない、菊のはずだ。

なのにどうしてこんなに胸が苦しくて、目頭が熱くて、今にも泣きそうになってんだ…!



「お前はどうしたいあるか………?」

伺うように俺に何かの答えを求める耀。


こいつの瞳もユラユラと揺れて涙を含んでいる。


「このこと…菊に話す気あるか?…我は…」


「…あいつには言わない。言ったら更に苦しめることになるんだろ」

「我も、そう思うある…でも、」


耀が言いたいことは痛いほど分かった。

俺たち二人だけで抱えるには大きすぎる。


これから菊に嘘をついて俺は過ごすのだろうか。


治るから、大丈夫だ。なんて言っていたあの言葉も全て嘘になる。


菊は…、本当に死んじゃうのか?

俺にできることはなんだろう…




「ふむ、そういうことだったのか。どうりで病状が良くならないわけだな。」


「「!!」」


耀と俺だけだった部屋につぶやかれた低い声に俺たちは開いていた障子に寄りかかる人物の方に振り返った。


「聞いてたのかよ…お前」

「盗み聞きは良い趣味とは言えねぇあるな…」

先ほどまで菊の部屋にいたはずのルートヴィッヒの姿がそこにあった。


会話の内容にはあまり驚いていないみたいだ。


「二人で部屋から出て話をするような関係ではなかったからな…少々気になったんだが」

「あまり驚いてないあるな」

「……少しも、とは言えないが」


ルートヴィッヒの故郷ドイツは確か医療に力を入れている。

もちろんルートヴィッヒも医療学を学んでいた。


多分肺結核のことも知ってたんだろうな。


「ヨーロッパではかかりにくい病気あるよ。」

「ああ、ヨーロッパではエボラ熱などが流行り病だ。だが俺は医療のことならある程度分かる。本田の病気が不治の病であることもな。」


キッパリと言い切ったその言葉は俺の胸に再び深く突き刺さった。


ルートヴィッヒは確実に知っている。

その病気のことを詳しく知ってるんだ。


その先は聞きたくなかった。



「悪い…俺、ちょっとあいつら見てくるから。」


聞くのが怖くて俺はその微妙な雰囲気から逃げた。

ズカズカと軋む縁側を早歩きで菊たちのいる部屋の障子をスパンッと開いた


「アーサーさん?」

キョトンと何も知らない菊とその傍で話してただろうフェリシアーノは目を丸くして俺を見た


そして俺は菊の顔を見たとたん、ぶわっと涙が出てきた。

無言で歩み寄って、横にいるフェリシアーノを気にしないで俺は菊を抱きしめていた


昨日と同様、温かいその身体が生きていることを実感させてくれる。


「ど、どうしたんですか?!アーサーさん…?」

「ヴェ?!ヴェ?アーサー?」

慌てふためいているフェリシアーノと菊。

アーサーさん?と心配そうな菊の声がもっと聞きたくてキツく抱きしめる


背中に添えられた菊の手も、全て本物。

ココにある。



「お、俺!ルート探してくるよ〜!アーサー具合悪いんだよね??」

「あ、じゃあお願いします。」


具合が悪いと勘違いしてルートヴィッヒを探しに行ったフェリシアーノ。

ふぅ、とため息をついた菊が俺の顔を覗く


「何、泣きそうになってるんですか、アーサーさん。」

「泣いて、なんか…ないんだからな…バカぁ!」


自分でも自暴自棄になってると自覚はしてるけど…

菊の小さな身体をまだ離したくない。


菊の着物の袖を掴んで、涙を必死にこらえる俺はさぞかし見ものだろう。


クスクスと笑って頬に手を添えられる。

ドクンと心臓が鳴って、恐る恐る顔を上げた


菊は微笑みながら俺を見ていた。


「貴方にそんな顔は似合いませんよ。笑っていた方が貴方らしいです。」

「……。」

「ああ、もう…またそんな顔なさって。」


だってお前が……


「本当、どうなさったんですか?また耀さんと言い争いでもしたんですか?」

ブンブンっと首を振る俺に何も知らない菊は優しい微笑みを向けている

俺は耐えきれなくなってしがみつくようにして菊の小さな胸に顔を埋めた


頭を胸に頭突きするような行動に菊は一瞬戸惑ったようだが、すぐに抱きしめ返してくれた。



カタカタと震える俺の肩も収まっていく。

これじゃあまるで俺が一番辛いみたいだよな。



でも悲しいんだ。

菊が重い病気で助からない事実が俺にとってどんな意味を持つというのが痛いくらい今の自分には分かる。


菊の傍を離れたらきっと菊は消えてしまう。


一番辛いのは菊のはず……



でも菊が居なくなるのは嫌だ。


どうしてだ…どうして……俺は大事な友達を救えないんだ…


こいつは俺が辛い時は支えてくれたのに。

なんで俺は菊がしてくれたことを菊にできないんだよ!




「……。」



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