I want you know all about you

□何よりも君が大切だから
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誰にも聴こえないように、小さくはぁ、とため息を吐いた。

僕の憂鬱の原因は目の前にいる彼。


今日はカシスの誕生日らしく、たくさんの女の子が彼にプレゼントを渡しに来た。
当の本人はというと、相変わらずのキザな笑顔を浮かべながら、女の子たちのプレゼントに受け答えしている。


(カシスは、ボクの恋人なのに、)


ひとりぼんやりとそう思ったところで、違うな、恋人なんてそんな大それたものじゃない、とひとり嘲笑した。

確かに、ボクとカシスは、ただの友達だ、というには行き過ぎたくらいの仲だ(口喧嘩はするけれど、そういうのも含めて)。

周りからは、ほんとうに仲がいいと言われる。
それをボクは嬉しいと思ってるし、自惚れとかじゃなくて、きっとカシスもそうだと思う。

だけど、ボクたちはみんなが思っているほど、堅い絆や何かで結ばれているわけじゃない。


ボクたちは、お互いに好き、と確かに言い合った訳じゃない。
一緒に居ると楽しいから、安心できるから。
そういった「なんとなく」という感情でボクたちは繋がっている。

誰よりもボクとカシスは一緒に居るし、それはまるで恋人同士が過ごす時間にも匹敵するかもしれない。

だけど、それまでのことだ。
だって、ボクもカシスも、お互いに「好き」なんて言ったことがないのだから。

ボクはカシス自身のことをほとんど知らない。
だから、今日がカシスの誕生日だってことも知らなかった。

ボクとカシスの関係は、それほどに曖昧で歪な関係なのだ。



しばらくして、女の子たちが去っていくと、カシスはたくさんの綺麗なラッピングに包まれたお菓子や雑貨を抱えてボクのほうへ来た。


「やっぱり人気者は辛いねぇ、たくさん貰っちまった」
「…ものすごい数だね。持って帰るの大変そう」


当たり障りのないような言葉しか出てこない。
ボクも、ほんとうはプレゼントを持ってくるべきだったね、とか、ごめんね、とか、そういうことを言うべきなのに。


「ホント。まぁ、プレゼントを貰えるってのは嬉しいことだけどな」
「…それ、ボクへの当て付け?」
「あ、そう聞こえた?わりぃ、そういうつもりじゃねぇんだ」
「わかってるよ」


ふて腐れているボクを見て、カシスはフッと笑った。


「ま、シードルからはいっつもいろんなモン貰ってるからな。今更何が欲しい、っていうものも無いしな」
「…ボクがキミに何をあげたって言うのさ」
「それはアレだろ、愛。ペシュっぽく言うと『愛ですの』!」
「…バッカみたい」




バカ、と悪態を吐いてみたけれど、心の中ではとても動揺していた。
カシスが「愛」だって、ボクがカシスに「愛」をあげていたって?

臭いセリフだってことはどうだっていい。

ボクたちの曖昧な関係の中で、カシスだけはボクたちに「愛」を見出していたというの?


「バカ、とは何さ。せっかく俺が一生に…まぁ何度かしてるけど、告白してるって言うのに」
「…はぁ?」


カシスの言葉を聞くたびに、ボクの中で何かが溢れ出してくる。
カシスがボクに「告白」しているって。
それは、カシスがボクを好きだって言うこと?




ずっと待ち望んでいたし、でもきっと聞くことは叶わないだろうと思っていた。

ずっとこのまま曖昧な関係で終わってしまうのだと思っていた。

ボクはずっと恐れていたのだ。
もしも、ボクがカシスに「告白」したのだとして、色好い返事が貰えなかったら?今までの関係にすら戻れなくなってしまうのだとしたら?

そう考えるだけでも涙が出そうだった。
こんなにも好きなのに、この恋は叶わないと思っていた。
それなのに、今は、カシスがボクに笑いかけてくれている。


「…嘘でしょう」
「嘘なんかつかねーよ。大体、嘘吐くメリットがどこにあんだっての」


そう言うとカシスは、急に真面目な顔になって、ボクに話し始めた。


「…今まで、ずっと怖かったんだ。もしも俺がシードルに『好き』って言って、否定されたら。
今までずっと曖昧な関係を続けてきたから、それが怖かった。
…だから、ずっと言わなかったんだ。

でも、今日さ、オマエ、俺のことずっと泣きそうな目で見てたろ。不安な顔してさ。
それに気付いたら、言わなきゃな、って思ったんだ」




カシスも、ボクと同じだったみたいだ。
嫌われるのが怖くて、お互いに一線を越えないようにしてきたのだ。

だけど、今日、もうこの場でそんな気遣いは要らなくなってしまった。


「…で、返事は」
「…わかってるくせに」
「ちゃんと聞きたい。その言葉を俺はずっと聞きたかったんだぜ」
「ボクだって、はっきりと言ってもらってない」
「…最後まで可愛くないヤツ」


いつものような会話をすると、ふたり顔を見合わせて笑った。


これからは、もうふたりで確かな「恋人」になれるのだ(いや、もうなったのかもしれない)。
何度も何度もお互いに「好き」って言ったり、誕生日を祝ったりするのだ。


その前に、ボクはカシスへのプレゼントを買いに行かなきゃならないのだけど。


何よりも君が大切だから
(じゃ、せーので言おうぜ)(バカップルみたいじゃない)

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