May I hold your hand?
□箱庭パセティック
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ひとり、ぽつりと部屋の中で、ぼろぼろと流れる涙を止めることなく泣いた。
この部屋には、自分ひとりしかいない。
俺の涙を拭ってくれるひとも、詰るひともいない。
いつものように、仕方ないですね、とくしゃりと髪を撫ぜるひともいない。
鬼男くんがいなくなってから、どれだけか分からないくらいの年月が経った。
時が過ぎればきっと忘れられるだろうと、今までだってそうだったと、そう思っていた。
それが、どうして。
鬼男くんに出会うまでは、何も怖くなかった、寧ろ望んでいた孤独が、今となってはどうしようもなく恐ろしい。
これから、俺は永遠にずっと鬼男くんがいない中で、思い出だけ残して存在しなければならないというのだ。
もう、鬼男くんは戻ってこない。
辛辣で、毒舌で、優秀な部下でとても優しかった鬼男くんはもうどこにもいない。
好きにならなければよかった、なんて後悔はしたくなかった。
それを認めてしまえば、ずっと過ごしてきた幸せだった俺と鬼男くんの今までをも否定することに繋がってしまうのだ。
諦められるわけ、ないじゃないか。
忘れられるわけ、ないじゃないか。
俺は鬼男くんのことが大好きで大好きで、鬼男くんも俺のことを大好きと言ってくれた。
そんな幸せを知ってしまったから、俺は諦めることも忘れることもしたくなかった。
(ねぇ、鬼男くん、戻ってきてよ)
(君がいないと、俺は、)
どれだけそう願おうとも叶わないなんてことはとうの昔に分かっていた。
(願い乞うことが無駄だって)(一番知っているのは俺だ)
時間が過ぎれば過ぎるほど、思い出だけがその色を一層濃くして俺に突き刺さっていく。
永遠に救われない世界で俺はいつまでも存在しなければならないのだ。
箱庭パセティック
(君に出会わなければよかったと)(そう思ってしまえたら楽なのに)