May I hold your hand?
□好きも要らない、愛してるも必要ない
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はじめから、全部わかっていたはずだった。
この幸せがずっと続くなんてありえないってことも、
それが会者定離という悲しいくらい必然の元にあるってことも。
それなのに、自分でも驚いてしまうくらいに俺は動揺していた。虚無感すら憶えた。
いつものように仕事を終えて、机の上の片付けをしていたときに、鬼男君が悲痛な面持ちで少しいいですか、とひとこと呟いた。
たったそのひとことだけで、俺の中でずっと覚悟していたときが来てしまったと、それだけで分かってしまった。
極めて明るく振舞った、つもりだった。
なぁに、そんなに改まっちゃって、いつも通りでいいよ
……すみません
謝らないでよ、どうしたの?
…実は、僕、もうすぐ、
鬼男君がもうすぐ、の次の言葉を言うのを躊躇った。
それには、多分、出来ることなら言いたくないという思いも含まれていたんだと思うけれど、一番の理由は、俺のせいだった。
大王、泣かないで下さい、お願いですから、
…え、俺、
すみません、ほんとうに、でも僕は、
明るく送り出すつもりだった。
泣くつもりもなかった。
新しいところで幸せになってほしいとほんとうに思っていたし、そこに俺が居なくても、記憶にすら存在しなくても、
鬼男君が幸せならそれでいいと思っていた。
それでも、今の俺は、鬼男君が俺の前から消えてしまうという事実が受け入れられなかった。
置いていかないでと、俺だって君といつまでも一緒に居たいよ、と。
好きも要らない、愛してるって言ってくれなくたっていい。
傍にさえいてくれれば、もうそれで満足だから。
それでもそれは小さな子供が喚くような我侭でしかないし、叶わないことだったのだ。
ごめんね、ごめんね鬼男君、
大王が謝ることじゃないですよ、ですから、泣かないでください
ごめんね、鬼男君、幸せになってね、
無理やり涙を袖で拭うと、ほんの少しだけどうにか作れた笑顔でばいばい、と言った。