May I hold your hand?
□その代償はシフォンケーキに致しましょう
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「何か隠し事してるでしょ?」
いつものように仕事をしていると、ふいに大王が呟いた。
大王は、書類に目を向けたまま僕の返事を待っている。
動揺が隠せない。
気付かれていないとも思っていたし、気付かせないようにもしていたはずなのに。
大王は僕の目を見ずにそれだけしか言わなかった。
いつもはきちんと向き合って話をしてくれるのに、今は僕など居ないかのように、
少しも僕の方を見ない。
それが不安を募らせる。
もしかしたら、もう何を隠しているのかすら、このひとには分かっているのかもしれない。
「…何も隠してませんよ」
「嘘でしょう」
動揺に感づかれないように、いたって普通に返事をしたつもりだったが、声が上擦ってしまったのが自分でも分かった。
そんな僕の様子に、大王はククッと喉を鳴らして笑ったかと思うと、嘘吐きはいけないな、としん、とした声で言った。
嘘を吐いたら俺に舌を抜かれちゃうよ。
まるで子供を諭すように一言をゆっくりと、それでいてどこか物怖じしてしまう程の透いた声で言う。
「嘘なんて、僕は」
「俺に嘘を吐こうなんて百万年、いや、それじゃ足りないか。
三千万年くらい早いね」
大王はくるりと椅子を回して、今度はきちんと僕の目を見て問いかけた。
「俺に、何を隠してるの?」
本当に、このひとは自分の武器を良く分かっていると思う。
どこか幼さを残した目は僕を捉えて離さない。
僕の表情の変化を見過ごすまいと、まるで尋問をしているかのように感情を持たない色で問いかけてくる。
それでいて、どこか慈愛に満ちたような視線で僕に語りかけるのだ。
こうなってしまったら、もうお手上げだ。
このひとを恐ろしいと思うのも、愛おしいと思うのも、
全てひっくるめて彼には敵わないのだ。
「…僕の負けです。すみません」
「俺の勝ちだね」
降参です、と手を上にひらひらと振ると、大王は楽しそうに右手を上げる。
「ではでは審判の時!何を隠しているか申してみよ!」
「…実は、」
実は、と言ったところで大王には申し訳ないが、罪悪感なんてとうに消えていた。
きっと、大王は告白に対して酷い!鬼!なんて言いながら、それでも笑ってくれるのだ。
自惚れだと言われても仕方ないような考えだが、でもおそらくそれが正しいのだと思う。
でも、まずは埋め合わせを考えなきゃならないな。
その代償はシフォンケーキに致しましょう
(はぁ!?ひとりで全部お菓子食べた!?酷い!鬼!ロクデナシ!)(あまりにも美味しそうだったので)