誕生日

□ゆがくれのさとから
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ある日、湯隠れの里から一通の手紙が届いた。

「飛段、お前宛だ」
「あ?誰からだよ……って、何で里から」

オレは宛先と送り主が間違ってないか確認すると手紙をその辺にほっぽった。

その日届いた手紙をオレはしばらく放置していた。
里からの送りものだ。どうせたいした物じゃないのだろうと、勝手に思い込んでいたから。




しばらくたって、ふと里からの手紙のことを思い出した。

どこへしまったかなとあちこちさがし、ようやく見つける。

手紙の封を破り、中を覗く。
すると手紙ともうひとつ、紙切れが入っていた。

「なんだ、これ」

紙切れを取り出すと蛇腹状になっていたらしく、下へと垂れ下がる。

「うん?……これ、湯隠れの温泉招待チケットじゃねぇか。しかも4枚ある。」

チケットを封筒の中に戻し、今度は手紙を出す。

「えっと……え、湯隠れの里から温泉へ招待いたしますゥ?なんで、また……」

何で抜け忍のオレに里がわざわざ招待するんだ。怪しすぎるだろう。

「はっ、もしかして罠……?温泉チケットを囮にしてこころウキウキわくわくで来たオレを暗殺しようってのかァ!」

部屋でそう叫ぶと同時に扉が開き、鬼鮫ちゃんが入ってくる。

「飛段、ご飯ですよ。あともう少し静かになさい」
「あ、おう。わかった。ごめん」

オレは封筒からチケットだけを取り出し、手紙と封筒を机の上におき、居間に行った。




「ってことでよォ、この中から3人選んで温泉いかねェ?」

オレは罠にはめられるのではないかと思ったし言ったが、あの平和ボケした里がそんなことするわけないと思い、昼飯を食べながらメンバーを誘うことにした。

「……なぜ3人なんだ」
「んだよ、イタチ行きてぇのかァ?んー、じゃー、あと2人」

意外だな、イタチは温泉が好きなのか。

「待て飛段。オレは行きたいとは言っていない」
「ハァ?じゃぁなんなんだよ」
「招待券は4枚あるのになぜ3人だけを決める。あと一人はもう決まっているのか?」
「オレに決まってんじゃん」

何言ってんだこいつ、と思いながらイタチに言うとイタチは納得したようだが、なぜかデイダラが反論してきた。

「何でお前がメンバーに入ってんだよ!この中から行きたいやつが4人出てきたらどうすんだよ、うん!」
「そんなもんオレが入ってなくたって余るやつは余るだろ」
「ぐ……で、でもお前が入ってなかったら」
「だぁもう!!ごちゃごちゃうるせぇんだよデイダラァ!!だいたいなァこの手紙をもらったのはオレだし、チケットだってオレ宛に来たんだぞォ!オレがメンバーに入ってて当然のことだろうがこの金髪ヤロー!!」

オレはデイダラの言葉を遮り、そう言う。

「なっ?!だ、誰が金髪ヤローだこの銀髪オールバックのど変態!!オレの髪は地毛だぁ!!!」
「てめぇのことだよ金髪碧眼ちょん髷ヤロー!!!だいたいなァオレは変態なんかじゃねぇ!!それに俺だって地毛なんだよォ!!」

オレとデイダラが言い合いをしていると角都のロケットパンチが飛んできた。

「貴様らいい加減にしろ。温泉ごときで喧嘩をするな」

「いってぇなァ……何も殴らなくてもいいだろうが」
「こうでもしない限り貴様らの喧嘩は収まらん。」

なんだよ、もともとはデイダラの野郎が悪いのに。

「はぁ……で、結局誰が行くんですか?」

喧嘩が一応収まったときに鬼鮫ちゃんが話を戻す。

「だからオレ以外の誰かを3人決めろっつってんじゃねぇか」
「ですからその3人を誰にするんですかといっているんです」
「飛段、鬼鮫、あまり突っかかった言い方はよせ」
「ちっ」
「……すみませんねぇ」

オレがどう決めようか考えてるとゼツが喋った。

「ココハアミダクジデ決メルノガイインジャナイカ?」
「ボクも参加したーい」
「バカ、オレ達ガ温泉ナンカ入レルワケガナイダロ」
「そっかぁー……」

あみだくじ……まぁ、喧嘩するよりはいいかァ。喧嘩すると鬼鮫ちゃんがキレるからな。キレた鬼鮫ちゃんは怖えェ。

「はぁ、あみだくじですか。では、紙を鉛筆を用意しましょう」
よっこいせと立ち上がる。

「なぁ、あみだくじ飯終わってからでいいんじゃね?」
「…………」

オレがそういうと鬼鮫ちゃんは無言でコタツに戻った。



昼飯も食べ終わり、再び温泉の話になる。

「で、誰が行くんだよォ」
「さっきあみだくじで決めるといったじゃないですか」
「あ、そっか」

みると机の上には紙と鉛筆。

「はい、ではお好きなところを選んでください。私はここで」

そういって右から二番目のところに名前を書く。

「じゃぁ、オイラここ」

順番に決めていって全員が名前を書いたところで最終確認をする。

「選んだところで文句はありませんね?結果が出てから文句を言うなんて方は問答無用で削ります」

なんてことを言いながらあみだくじをたどる。

「おや、デイダラ残念でしたね。ハズレみたいですよ」
「なんでだよっ!」
「まぁ、運ですから」

デイダラはハズレ。

「角都さん、当たりましたよ」
「ふむ、そうか」

角都があたり。
オレは角都に温泉チケットを一枚渡す。

「……なぜ今渡す」
「当たった時に渡した方があと何人かわかりやすいだろォ」
「……。………………」

何か言いたそうだが気にしない。

「おやおや、あたりました。」
「ん、チケット」
「ありがとうございます。」

鬼鮫ちゃんがあたったのでチケットを渡す。

「んーっと……おやおや、サソリさん、あなたあたりましたけど、お風呂入る必要あるんですか?」
「お、オレはっ」
「イタチさんは残念ながら」
「……そう、か……」

イタチがものすごく落ち込んでる。やっぱり行きたかったのか。

「あ?オレだって風呂ぐらい入るに決まってんだろ」

意外なことに傀儡も風呂に入るらしい。

「カビたりしないんですか?」
「んなもん風呂用の傀儡に着替えるに決まってんだろーが」

………………えっ

「傀儡に風呂用とか、あんの?」
「なかったらどうやって風呂はいるんだよ」

あ、あるんだ

「風呂用のと普通のとどう違うんだ、うん?」
「攻撃用じゃないからなんもついてねぇ。いわばただの傀儡だ。風呂はいるのに武器やら何やらがついてると邪魔だろ?」
「ま、まぁ」
「つまり、何の仕掛けもないいたって普通な傀儡ってことかァ」
「それ今言ったぞ、うん」
「そうだっけ?」

覚えてねェや

「で、結局行くんですか?温泉」
「行くに決まってんだろ。核だって温泉いきてぇだろうし」
「行きたいだろうって、あなたの核でしょう」

やっと行くメンバーが決まった。
あとは日にちだけだ。

「いついくんだよ、うん」
「あー、明日か明後日でいいんじゃねェ?」
「奇遇だな、二日とも任務が入っていない。」
「私もです。まぁ、入っていてもイタチさん一人に任せますけどね……って、冗談ですよ、怒らないでくださいイタチさん」
「じゃぁ、明日で」
「ずいぶん急だな」
「早いほうがいいだろォ」
「……まぁな」

こうして温泉に行くメンバーと日にちが決まった。



温泉に行くことをすっかり忘れていたオレは翌日の早朝、角都に叩き起こされた。どっちかって言うと殴り起こされた。

「なァ、もうちょっとやさしい起こし方ってもんがあっただろォ……頭痛ェよ……」

頭を抑えながら角都に言う。

「知るか、忘れていたお前が悪い。さっさと準備をしろ」
「わーかってるっつうのー…………ふぁぁあぁ」

あくびをしながら温泉にいく準備をする。

準備し終わり、アジトの前に出ると、鬼鮫ちゃんとサソリがいた。

「おせぇぞ。待たせてんじゃねぇ」
「まったく、日付を決めたのはあなたでしょう」
「あぁ、わりぃな」
「さっさと行くぞ」
「はいよー……ふぁあぁあ」

皆集まったところでいざ、湯隠れの里へと出発した。



しばらくすると、湯けむりに包まれた里が見えてくる。
特に木の葉のように結界を貼ってあるわけではないので、すんなり入って行く。

「おいおい、いくら平和ボケしてるからって結界貼らなくていいのかよ」
「んなもん必要ねぇよォ。だーれもこんな里襲いやしねぇから」
「ボケ過ぎじゃありません?」

しかたねぇよ。里長も里の住民も、湯忍ですら敵襲はないって安心しきってんだからよ。

そう話しているうちに、目的の温泉宿につく。

「おい飛段、宿ではないか。泊まる金など持ち合わせとらんぞ」
「だぁーいじょうぶだってェ。温泉だけでも利用可能なんだからよォ……ふあぁあ……」
「あくびしすぎじゃありません?」
「…………」

サソリが何か言いたそうに鬼鮫ちゃんを見ている。

が、気にせず全員から招待券を預かり受付へ持っていく。

「いらっしゃいませー」
「あー、これ、招待券なんだけどよォ」
「何名様でいらっしゃいますかー?」
「4人で」
「かしこまりましたー。ごゆっくりどうぞー」

受付を済まし、おっさん3人を温泉に案内する

「こっちだぜェ」
「来たことがあるのか」
「里の温泉はオールコンプリートしてるからな。知らない温泉はないぜェ!」

なんて自慢している間に男湯につく。

「最近ここ電気風呂とかでてきたから客が増えたな」
「なんで里の近況をアナタが知っているんですか」
「たまに入りたくなるから来てんだよ」

脱衣所はむさくるしいおっさんの溜まり場のようになっていた。
若いのはオレのほかにぱっと見5人くらいしかいない。

「……おいぼれどもばっかだな」
「お前もだろ」
「……」

サソリが睨まれているが、気づいていない。
傀儡はきっと視線も感じない。
……たぶん。




脱衣所で服を脱ぎ、さっそく洗い場へと向かう。

「ひろいですねぇ」
「温泉だからなァ」
「ここの里の一般家庭のお風呂は温泉なんですか?」
「温泉のとこもあるけど、オレん家は違ったなァ」
「そうなんですか。しかし……こうも広いとつい泳ぎたくなってしまいますねぇ」
「魚としての本能か」
「アホですか、私は人間ですよ」

鬼鮫ちゃんが角都にアホって言った。

「おいおい、泳ぐなよ?いい年して」
「泳ぎませんよ。そういうあなたこそはしゃいだりしないでくださいよ、サソリさん」
「ガキじゃねぇんだから、んなことしねぇよ」
「どうですかねぇ」

オレはおっさんたちを無視して髪の毛を洗う。
ここのシャンプーは微妙だからアジトからこっそり持ってきたシャンプーで洗う。
右をチラッと見るとなんとサソリが髪の毛を洗っていた。

「…………」
「……なんだよ」
「……えっ、あぁ。サソリ、髪の毛洗うんだなぁって思って」
「当たり前だろ。お前昨日からオレのことバカにしてんのか?」
「いや、別にバカにゃしてねぇよ。ただ洗う必要があるのか気になっただけだし」
「……お前、やっぱバカにしてるだろ」
「いや、してねぇって」 

喋りながらもしっかりと髪の毛を洗い、リンスをする。
リンスをつけたまま体を洗い、そのまま顔も洗い、一気に全部流す。

「お前結構おおさっばだな」
「んだよ、こっちのが楽なんだから別にいいだろォ」
「まぁ、な」


髪も体もすべて洗い流し、湯船にはいる。

「あぁーー…………やっぱ温泉は最高だな」
「飛段、年寄り臭いですよ。はあぁー…………いい湯ですねぇ……」
「鬼鮫ちゃんもじゃねぇかァ」
「…………」

鬼鮫ちゃんと話している時に本物の年寄りの視線がオレの頭上に降り注ぐ。
恐る恐る顔をあげる。

「な、なんだよ」
「お前はオレをバカにしているのか」
「あー、それさっきサソリに言われたからいいや。一歩遅かったなァ」
「何の話だ。オレはお前がオレの事をバカにしているのかと聞いている」
「あー、ないない。お前バカにするとかありえねぇから」
「…………そうか」
「お前バカにするとオレ命が危ない」
「…………血溜まり温泉にしてやろうか」
「お前最近はやりのチューニビョーってやつかァ?」
「………………」
「飛段、少し黙りなさい」

鬼鮫ちゃんが“あ゛ぁー……”といいながらオレに言う。

「鬼鮫ちゃんおっさんくせぇぞォ」
「いいたくありませんがこの中でおっさんじゃないのはアナタだけですよ」

そういえば、そうだな。

「ゲハハ、鬼鮫ちゃんも年取ったなァ」
「……アナタ本当に自覚ないんですか?」
「あ?なにがだよ」

オレはどうやら気づかないうちに不快な思いをさせてしまっているらしい。
これから気を付けるかァ。


一日中温泉に浸かって疲れがすっかり取れたところでオレ達は温泉を後にした。
途中で角都がのぼせて死にかけるなど、予想外なこともあったがオレ達の温泉旅行は無事終了した。

「そりゃ一日中温泉に浸かればのぼせもする、うん。角都の旦那は爺なんだから入浴時間を1時間以内に治めたほうがいいぞ、うん。絶対に、うん」

角都がのぼせたことを話したらデイダラがそういった。
予想通りデイダラは角都に殴られたけど。
角都って爺の癖に爺っていわれると怒るよな。
本当のことじゃねぇか。


結局なんで里がオレ宛に招待券なんか送ってきたのかわからなかったな。

「……あ」
「どうしたんだ、うん?」
「里長んとこ行って何で招待券送ってきたのか聞けばよかった」
「アホか、何でそう思うんだよ!仮にも抜け忍だろ」
「招待券送ってきたくらいなんだから会いに行っても怪しまれやしねぇよォ」


のちにあの招待券は誤配だったことを知る。


でも宛名間違ってなかったけどなァ……。
どういうことなんだ?

謎は謎に包まれたまま忘れ去られた。

4.2 飛段

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