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□バレンタインなんて
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二月のある日の朝
「なぁ小南、お前好きな人とかいんの?」
「いきなりなによ」
「いや、今日バレンタインだろ?毎年みんなにチョコ配ってるけど、本命とかいんのかなぁって思って」

そう、今日は2月14日。世の中では"バレンタインデー"と呼ばれるこの日、オレはこの日になると気になることを小南に聞いてみたのだ。

"お前に好きな人はいるのか"、"その好きな人とは誰のことなのか"と。

「本命……まぁ、しいていうならあなた、かしら」

「……ほ、本当かよっ。おぉぉっしゃあぁ!!」
オレは喜んだ
人生で一番喜んだ。

なんせ思いを寄せていた人に"本命はあなた"といわれたのだから……


……そこでオレは目を覚ました。

「……なんで、小南なんだよォ」

そもそもあいつにはペインがいるだろう。
それに

「オレ、別に小南のこと好きじゃねぇし……くあぁあぁああぁぁ」

大あくびをしながらため息をつく。

眠いな、このまま、また寝てしまおうか。
だが時間によっては、鬼鮫ちゃんに叩き起こされる。
オレは時間を確認すべく、体を起こし時計を見やる。

"午前 10:24"

角都に頼み込んで買ってもらったデジタル時計の液晶にはそう表示されていた。

「んー…………じゅうじ、にじゅうよんふん……24分かぁ……」

中途半端な時間に起きてしまった。
そろそろ鬼鮫ちゃんがくる頃か、と思った矢先、部屋の扉がノックされる。

『飛段、まだ寝ているんですか?入りますよ?』

思ったとおり、部屋を訪れたのは鬼鮫ちゃんだった。

「あー、起きてるぜぇ……もうすぐいくわ」

『早くしないとご飯が冷めてしまいますからね』

「んー、わかったァ」

布団から這いずり出て、外套を手に取り、リビングにむかう。


「鬼鮫ちゃんよぉ、今日の朝飯はなんだァ…?」
眠い目こすりながら、台所で洗い物している"暁のおかん"こと干柿さんちの鬼鮫さんに問いかける。

「あぁ、やっときましたか。今日はご飯と味噌汁と鯖の塩焼きですよ。」
「げぇ、また鯖の塩焼きかよォ……」
「文句言わないで、食べてください。」
「うぇー……わかったよ…」

最近鯖ばかり食べている。
気がするんじゃなくて、実際にそうなのだ。
昨日も一昨日も朝ごはんには鯖の塩焼きがついた。

ちゃっちゃと朝ごはんを食べ終わり、鬼鮫ちゃんに食器を渡す。

「ごちそうさーん、明日は鯖以外にしてくれよォ」

そういってみるが

「だめですよ、まだ鯖余っているんですから。」

そう、返ってきた。

「はぁァ?どんなけあんだよ」
「安かったのでつい、ね。大丈夫ですよ、あと三袋です。一袋三枚入りなので、明日で鯖は終わりです。」

「よっしゃ。あ、そうだ、今日ってバレンタインだろ?小南からチョコもらったかァ?」

夢のようにならないでほしいと願いながらもチョコはほしいので聞いてみる。

「えぇ、もらいましたよ。飛段の分も預かっておきました。」
どうぞ、と渡される。

ありがとう、と言いながら受け取る。
小南から受け取っていないから、直接言われるという可能性はなくなった。

受け取ったチョコは袋に入っていた。
早速袋を開けて中身を確認する。

中にはちょっとお高そうなチョコが入っていた。
手紙などは、入っていない。

これで告白されることはなくなったぞ!

安心してチョコを持って部屋に戻る。

「ゲハハハ、まぁ、オレに告白なんて一生ありえねぇんだけどなっ」

なんて、本気でありそうでドキドキしていたのに、一人、強がる。
それでも

「…………」

小南が来たりしないか、警戒しながらチョコをむさぼる。

どうやらこれは買ったものではなく、小南の手作りらしい。
甘かったり苦かったり、去年はなかった味のばらつきがある。

「なんか、意味でもあんのかァ?」
そう、つぶやくと

「ないわよ、ただ失敗したのをあなたにあげただけ」
と、声がした。
オレはなんとも思わずに
「なんだ、そういうことかよ。」
と返事をしたが、よくよく考えてみるとここオレの部屋だし、オレ以外いなかったはずだし。
声がするのおかしいだろ、と思い、声がしたほうを見ると

「………ぎゃっ」

小南がいた

「……せっかくチョコをあげたのにずいぶんと失礼ね」
「いや、いきなり出てくるのが悪ぃだろっ」
「あら、そう。じゃぁあなたにはコレ、みせてあげないわ」

そういいながら右手をひらひらさせる小南。
その右手には一枚の紙切れ。

オレは、まさか、と思い恐る恐る聞いてみた。
「……なんだよ、ソレ」
「さぁ、なんでしょうね。さっきのこと、謝ってくれたら教えてあげてもいいわよ」
「はぁ?んだよそれ」
「嫌ならいいわ、帰るから」
そういうと部屋から出て行こうとするので、慌てて止める。

「わ、わかった、謝る、ごめん。」
「……まぁ、いいわ。はい、ただの任務の連絡メモよ。なくさないでね」
そういって右手に持っていた紙切れをオレに渡す。

本当に任務の連絡メモか、確認してから受け取る。

「ん……ん?」
そこには、任務に関係あるのか?と思うような単語が。

「なぁ、小南、これなんだよ」
不思議に思い、指をさして小南にたずねる。
紙には"告白"という文字がまるでぐるぐると囲まれていた。

「あぁ、これは別のメモよ。任務には関係ないわ。ついでにあなたにも関係ないわよ」
小南はそういいながら"告白"と書かれた部分だけ破って残りをオレに返す。
さらりと少しひどいことを言われた気がした。

「なんだよ、関係ないなら消すとかしろよ。勘違いするだろーが」
「あなたに勘違いされるなんてこっちもごめんよ。」
「あーそーかよ、用はもう済んだのかよ。済んだならでてけ。俺は今から昼寝するんだから」
「言われなくても出ていくわよ、こんな血生臭い部屋」
そういうと小南はでていった。

「んだよ、"チナマグサイ"ってよォ。にしても、あれが俺宛じゃなくて本当によかったぜェ…危うく正夢になるとこだった。」

オレはほっと一安心すると布団にもぐった。


昼寝から起きたときになぜか小南がオレの部屋にいてオレは10センチくらい飛んだ。
名前のごとく、飛び跳ねた。

「……昼といい、今回といい、あなた私に対して失礼すぎない?」
「い、いや、びびっただけだって、誰だって起きたときに他の人がいたらびびるだろ?」
「……」

それから3日は口を利いてくれなくなった。

告白の意味は愛とか恋とかそういうのは関係なく、ペインに嘘をついていて、本当のことを告白する、という意味だったらしい。
本当に紛らわしいことをしてくれる。


「もう二度とあんなことすんなよ、紛らわしいんだからよォ」
「……………」
小南にタイミングを見計らってそう言ったらまた口を利いてくれなくなった。

ああぁぁぁ、めんどくさいっ!

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