紅天女

□第十二章
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今日の夜は名無しさんが居ない。




昼間偶然再会した兄貴に会うだめだ。




喜ばしい事じゃねえか!



数年ぶりに兄貴に会えるんだから。



"良かったな"って笑って言ってやりてぇよ。














相手が万屋じゃなかったらなァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!
















総悟の始末書を書いているとやけに煙草の吸殻が多い事に気が付いた。



・・・・・イラついてんのかよ。



自嘲気味に笑うと、スパン!と襖が開いた。



「・・・ッチ。なんだよ?総悟。」



目線は書類に向けたまま



「話したい事がありやして」


そう言うと沖田は部屋の真ん中に胡坐をかいて座った。



「忙しいから手短に言え。」


仕方なく筆を置き、沖田に向かい合う。


するとニタリと笑い胸ポケットから小さなブローチを取りだした。



「なんだ?それ?」



煙草に火を付けながら、まじまじとそれを見る。



「盗聴器でさァ。」


「はぁァァァァ!!!?んなもんどうするんだよ!!??」



ブローチを胸ポケットにしまうと、何時になく真剣な表情で土方を見据えた。




「"適合者"と"ドール"って何だと思いやすかィ?」



その単語に土方の眉間の皺が濃くなる。




「きっと旦那は知ってまさァ。でも俺たちは知らねィ。」



膝の上の拳がギュッと締まる。



「名無しさんを大切に思ってんのは旦那だけじゃねえでさァ。俺だって・・・・」



「・・・だから、今日名無しさんに盗聴器を付けて2人の会話を盗み聞きするのか?」



「・・・・・・・・・そうでさァ。」



暫し、2人は沈黙する。
障子の隙間から、今日と言う日を終わらせるべく、夕日が少し射し込む。



「・・・・俺は賛成できねえ。」


グシャリと煙草を灰皿に押しつけるとクルッと向きを変えて書類に目を通し始めた。



「何ででさァ!!?アンタだって名無しさんの事大切に思ってるんだろィ!?知りたいと思ってるんだろィ!!?・・・・・・・アイツを苦しめるもんから守ってやりたいと・・・・思ってるんだろ?」





・・・・・・まさか総悟もそんな事思ってたのか・・・・・。




いつも自分の事だけの我儘総悟からの意外な言葉に目を丸くした。



「・・・・思ってても、勝手に詮索するもんじゃねーだろ?」



「・・・・・・・・・・。」



「今は言えないんだろうよ?」



「・・・・・・・・・・。」



「俺らはさ・・・・・名無しさんを信じて待っててやろうぜ?」



「・・・・・・・・・・。」



「それでもアイツが何も話さないときは本人から聞けばいい。ちゃんと目を見て、アイツを見て、すぐ頭撫でてやれるように、傍で聞いてやればいい。」



「・・・・・・・・・・・・。」



新しい煙草に火を付け、ふーっと頭上に煙を吐いた。



「それでいいんじゃねェかな?」



そんな事を言っている土方の背中が少し寂しく見えるのは射し込んでいる夕日のせいだろうか?


沖田はぐっと拳を握って立ち上がった。



「分かりやした。今回は諦めまさァー。」


襖に手を掛け開けると、中庭が夕日で真っ赤に染まっていた。



「でも、何時までも話さない時はお得意の拷問に掛けちゃまいますからねィ?」


二ヤリと笑うと盗聴器をポイと土方に投げて部屋を出て行った。

投げられた盗聴器を握りつぶすと、破片をゴミ箱に捨てた。





「話してくれるまで待つ・・・かぁ・・・」




正直、盗聴器に頼ってしまいたい自分がいた。


でも何故か、今それをして全てを知ってしまうと名無しさんが此処から消えてしまいそうで、出来なかった。


「鬼の副長」と呼ばれていてもこんなもんだ。


思わず苦笑し、新しい書類に手を掛けた。











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