SeRieS
□アクアマリンをアナタに
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_シャボンディ諸島沿岸部
今正に、ニューゲートは頭を抱えていた。
シャボンディ諸島の無法地帯近辺に船を停め、一人で海岸線に沿って無法地帯を散歩していると、海から一人の女が現れたのだ。
勿論、こんな無法地帯で楽しくバカンス気分で泳ぐ馬鹿はいない。
だが、そんな馬鹿よりも遥かにその女は馬鹿な様だ。
「…此処が何処だか分かってんのか、てめェ。」
「シャボンディ諸島です!」
「そうじゃねェ、お前ェは「あ、私はリンゴです。」…そうか、リンゴ。人攫いに遭っても知らねェぞ。」
「陸には上がらないので大丈夫です!」
「…はァ。」
そう、先程自身が逃げろと言った人魚のリンゴがこんな島に堂々と姿を現したのだ。
此処は魚人島に行く為には必ず寄らねばならない場所である為、海賊が多く集う。
それに伴って賞金稼ぎや海兵だけでなく、人攫い稼業の人間等も多く滞在している危険な諸島としても有名である。
賞金首であるニューゲートはそれなりに警戒しながら歩いていたのだが、この小娘は全くの無警戒心。
人間である己よりも、高値で取引される人魚のリンゴが馬鹿みたいに無防備な事に、彼の口からは溜め息しか出てこない。
「馬鹿か?てめェは…。」
「よく言われますが、捕まった事はありませんよ?」
ニコニコと屈託無く笑うリンゴに、ニューゲートは再び肩を落としたのだった。
仕方ないと諦めた彼は、丁度良く見付けた岩場に腰を掛けて、膝に肘を付きながらリンゴを眺めた。
_美しい
素直にそう感じた。
嬉しそうにニューゲートに近付いて、岩場に肘を付くその姿は無邪気な子供の様で、思わず笑みが零れる。
「ニューゲートは海賊ですよね?」
「…名前知ってんのか。」
「船から聞こえましたわ。」
「あァ…あん時か。」
「それで、海賊ですよね?」
「あァ、海賊だ。」
そう答えた瞬間、彼女はキラキラとまばゆい程の瞳を向けてきた。
「ぼ、冒険は…しましたか?」
その言葉に一瞬ポカンとしたが、思わずニューゲートはクックッと喉を震わせてしまった。
それにリンゴは顔を赤くして頬を膨らましたが、彼がすまんと詫びると、直ぐに機嫌を直して微笑む。
「あァ、冒険してきたなァ。聞きてェのか?」
「…はいっ!」
リンゴの満面の笑みに、ニューゲートはクラリと眩暈にも似たものを覚えて。
無意識に右手を彼女へと差し出した。
その手にリンゴは何の警戒も無く同じ様に右手を差し出すと、彼は彼女を引っ張り上げて、膝の上へと包み込む様にして優しく抱き上げる。
頬を紅潮させるリンゴに一つ笑みを零し、彼女の額に口付けると、更に顔を赤くさせるリンゴ。
“『愛しい』ってのァ、こういう事を言うのか…。”
ニューゲートは生まれて初めて、心から愛しいと思う、そんな感情を覚えたのだった。