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□犬も歩けば何とやら
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生まれも育ちもグランドラインで、世はまさに海賊が溢れ返る大航海時代!!





そうなれば勿論、海兵の徴兵が増えるわ賞金稼ぎも増えるわで、海賊と戦う海兵やら賞金稼ぎなんてのは最早日常茶飯事。
それを見て育った私は、八百屋の両親の反対を押し切って当たり前のように賞金稼ぎに就職した。
……断じて八百屋を継ぎたくなかった訳ではないし、算盤が苦手だったからではない、決して違う。



普通に考えて賞金首捕まえれば百万ベリー単位は勿論、上手くいけば千万ベリー単位が一発で稼げるのを考えたら、八百屋でちまちま稼ぐなんて阿呆らしく思えたんだ。
だから、正直言って今物凄くそんな馬鹿な考えに至った自分を後悔している。

だってその時の私は、賞金首を捕まえるには相応の強さが必要なんて至極当然な事に全く気付いていなかったんだから。




そんな私は取り敢えず漁船に乗って、ひっそりと親の目を盗んで海に出た。
陸育ちの私がグランドラインの過酷さなんて勿論知る筈もなく、すぐに海に流されて漂流し、遭難した。

そんな時に偶然出会ったのが賞金稼ぎとして有名な殺し屋レオンで、事情を説明したら大笑いされて船の炊事洗濯するなら乗せてやると言ってくれた。
マジで命の恩人である。
あの時はレオンが神に見えただけじゃ留まらず、神々しい後光まで差していたのだから。

勿論、本当に人間が後光なんて差せる筈はなく、現実はレオンに拾われたのが日の出とほぼ同時だっただけだ。
現実って夢が無いよね。




そこからはレオンが稼いできた賞金を私が遣り繰りして、空いた時間にはレオンから船の動かし方や航海術やら、果てには銃の扱いまで教わった。
剣士に憧れていたから剣術を教わりたかったのだが「リンゴの細ェ腕じゃ剣は無理だ」とバッサリ言われた。

そんな事ない!!とは思ったけど、実際にレオンの戦う所を見て、もし私が鍔迫り合いなんてしたら即失神するだろうから、レオンの判断は決して間違ってなかった。
夢って儚いものだと知った瞬間だった。




そして、シャボンディ諸島では新世界に行きたいとかふざけた事を言い出したレオンを私が止める、なんて事は勿論出来る筈もなく、シャボンディ諸島の無法地帯の賞金首を取りまくったレオンがそのお金を全て注ぎ込み、更にはマリージョアの通行を認可されてしまい、晴れて新世界入りが叶ったのだ。
全く嬉しくなかった。

よく認可が下りたな…なんて思ったら、何やらレオンは過去に海賊に襲撃されてた海軍駐屯所を助けた事があったとかで、海軍から意外と好印象を持たれていたらしい。
海賊も驚きの極悪人みたいな顔してるのに、世の中は不思議なものだ……と思ったけど、よくよく見たらレオンと話す海兵さんも極悪人面だった。
服装揃えたら海兵も海賊も変わらない気がする、うん。





マリージョアを通行した後はレオンでさえ初めて見る気象だとかで、かなり苦労したけど、何とか島を渡っては手配書で見掛けていた強い海賊の首を取るレオンの勇姿は本当に頼もしかったんだ。
それはもう、本当に心強かった。

それなのに、レオンから言われたのは「もうリンゴとは一緒にやっていけねェ」の残酷な一言。
その言葉を置き土産にして、一応治安の良かったらしい島に私を置き去りにしてレオンは出航してしまった。
それを涙ながらに見た私は、本気であの時の自分に言ってやりたい…!と両手を固く握り締めた。

目玉焼きは醤油派かソース派かなんて、どうでも良いじゃないかと。

因みにレオンが醤油派で私がソース派だ。
朝食で目玉焼きが出た時に喧嘩になり、絶交までされてしまったのだ。
たかだか、目玉焼きに何をかけるかという話だけで。
寧ろ何故今まで目玉焼きがご飯に並ばなかったのか、そっちのが不思議でならない。





つまり、戦いはほぼレオンに任せっきりにしていた、船の家政婦みたいな私は新世界の島で一人置き去りにされてしまったのだ。

それに呆然と立ち尽くしていると、足元でまるで私を慰めるように頭を擦り付けてくる白い犬。
その可愛さと優しさに酷く感動して、思わず抱き上げて近くの屋台で焼き鳥を買って食べさせてあげた。

絶交したと言っても私の弱さを知るレオンは、ほんの小遣い程度のお金は渡してくれていた。
ありがとう、レオン。
貴方の事は忘れないよ、恨んでもいるけど。

その白い犬は焼き鳥をそれはもう美味しそうに食べては、私の顔中をぺろぺろ舐め回し、それに私も思わず笑ってしまった。













「…………という感じで、わんちゃんと一緒にいました。」
「お前ェ、絶対馬鹿だろ。」
「……否定出来ません。」


あの後すぐ白い犬の飼い主がやって来たのだが、焼き鳥を食べさせてあげた上に白い犬が私に懐いているのを見た犬の飼い主の男は、礼がしたいと私の手を掴み、私が返事をする前にさっさと港を歩き出した。

何処かで見た事ある顔だなぁとか、このテンガロンハット見た事あるなぁとか、この背中のマーク見た事あるなぁとか思ってたら、白い大きな鯨の帆船が見えてきて。
その帆船にでかでかと描かれているマークが目の前の男の背中にあるマークと同じ事に気付いて。
マストの天辺に黒い旗が掲げられてるのに気付いて、私の思考は止まった。

勿論、その瞬間に目の前の男がかの有名な海賊である事にも気付いた。



白ひげ海賊団・二番隊隊長『火拳のエース』



見た事あるなぁ…ってそりゃあそうだよ!!と一人ツッコミした所で現状打破なんて出来る筈もなく、私は左腕で白い犬(後に知るのだが名前はステファンだ)を抱っこして、右手は火拳のエースに繋がれてるという絶体絶命の状況。

取り敢えず、思考は止まっても足は止まってくれなかったらしく、私は大人しく火拳のエースと艦橋を渡って甲板に着くと、彼は「取り敢えず座れよ!」なんてニカッと笑ったのだ。



あぁ、これはあれだ。
申し開きとかいうやつで、きっとこの白い犬は白ひげの忠犬か何かで私が誘拐したと思われてるんだ。
そして、言い訳くらいは聞いてやるってノリで殺されるんだ。

そう火拳のエースに告げれば、彼は目をキョトンとさせてから盛大に笑った。
その笑い声にあちこちから人相の悪い男がわらわらとやって来て、私は恐怖に凍り付きながら火拳のエースに促されて今までの旅の経緯を話したのだ。





そしたら周りの男達全員が盛大に笑い出し、中には涙まで浮かべてヒィヒィ言ってる人もいた。

初めて見た海賊白ひげは大き過ぎて迫力有り過ぎて、急に甲板に現れた時は失神しそうになったが、エースにぺちぺちとほっぺを叩かれて無理矢理起こされた、この人鬼畜だ。
その白ひげまで今ではグララララと愉快そうに大きく笑ってるんだから、私は一体どうしたら良いのか。


「リンゴは面白ェ奴だな!」
「そうですか?」
「あァ、面白ェっっっ!!!!」
「それならそれで良いです。」
「もう面白ついでに船乗っちまえよ。」
「えぇ、そうでs……………………は?」
「ハハハハハハハッッッッ!!!!!!やっぱり面白ェっっ!!!!」


火拳のエースがサラリと爆弾投下したかと思えば、手配書で見た事しか無い顔が「…だとよい。良かったな、リンゴ。」「俺、サッチってんだ!宜しくな!リンゴちゃん!」とまで言われ、懸賞額が恐ろしい『不死鳥マルコ』の本物がいる事に驚き、いや流石に白ひげ四番隊隊長の名前くらい知ってますよとツッコミたくなったりと忙しかったが。




「あ、リンゴは俺のな。」

俺が連れて来たんだからな!




またもやサクッと爆弾投下して、更には唇のすぐ横にキスしてきた火拳のエースに、私は今度こそ本気で失神した。















犬も歩けば何とやら















出航した船を

泣きながら見送る姿に

一目惚れして

思わずステファンをけしかけたのは

俺とステファンしか知らない

秘密の話















fin.




※レオンは有名な殺し屋の映画から。


 

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