SHoRT
□ケーキをどうぞ
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モビーディック号に乗ってから早数年。
戦闘員にもなれない弱っちい私の雑用歴も早数年。
そして、私の片思いも早数年。
ケーキをどうぞ甲板をガシガシとデッキブラシ掛けしてると、方方から掛け声が聞こえてくる。
今日は二番隊と四番隊の特訓の日らしく、隊長が隊員達に組手の相手をしたり、最高に楽しそうな悪そうな笑顔で鬼畜トレーニングを課したり。
「…一応、私も四番隊なんだけどなー…。」
そう、私は四番隊隊員の一人。
しかし、しかし!
私は未だに特訓の仲間に入れてもらえない。
いや、私が弱すぎるのがいけないのは分かってる。
分かってるけども…!!
何だか戦う訓練すら混ぜてもらえないのは、仲間外れにされてる気分。
実際、誰も私を仲間外れにしてないし、寧ろみんなが面倒臭がる雑用を殆ど引き受けてるから感謝されてるんだけども。
ついでに言えば、いつも家族の為に掃除やら洗濯やら書類整理やら四番隊の担当である炊事やら、数々の雑務をこなしてくれているからこそ私は戦えなくても良いのだと。
そう言って貰えるのは嬉しいし、それを糧に雑務を頑張れるというものだが。
やはり、戦えないというのは海賊としてマイナスであるようにしか思えない。
悶々と思いながらデッキブラシから乾いたモップに持ち替えて、濡れた床を綺麗に乾拭きする。
…よし、めちゃくちゃ綺麗に床が輝いてる、流石は私。
自画自賛しつつも、何だか残念で悲しいのは気のせいだと思おう。
「おっ!流石リンゴちゃん、めちゃくちゃ綺麗じゃん!」
「サササササササッチ隊長っっっっっ!!!!」
急に後ろから声を掛けられて振り向けば、そこには我等が四番隊隊長のサッチ隊長が満面の笑みを浮かべていた。
ん?なんて軽く首を傾げながら大きな手で私の頭を撫でられて、一気に胸の鼓動が早まる。
いやいやいやいやいやいやいやいや、近い近い近い近い近い。
心臓破裂するから切実に特訓戻って下さいお願いします。
そう思っても口が動かない私にサッチ隊長は、キッチンに私のおやつあるから休憩しておいでと優しく笑いながら、撫でていた手でヒラリと手を振って特訓へと戻って行った。
その後ろ姿に少しの安心と残念な思いが入り交じったけど、サッチ隊長お手製のおやつ…それは是非とも食べたい。
それはもう、切実に。
緩む口元もそのままに急いで掃除用具を纏めて、用具室へと向かう。
元々私は小さな島の小さなカフェでパティシエをしていた。
そこにたまたま白ひげ海賊団が着港して、たまたま私の働くカフェにサッチ隊長とビスタ隊長が来て、たまたまサッチ隊長が注文したケーキが私の作ったケーキで。
どうやらそれがかなりサッチ隊長の口に合ったらしく、それから連日サッチ隊長から勧誘をされ続けた。
始めは海賊船なんて乗れるか!とやんわり断っていたけれど、徐々にサッチ隊長との料理に関する話や、その度に見せる眩しい程の笑顔に惹かれていって。
毎回違う隊長を連れてきては、戦えなくても俺達が守るから大丈夫だという言葉と、私の気持ちの変化に気付いたマスターの後押しもあって、白ひげ海賊団に入団する事になった。
だからまぁ…戦えなくても良いんだけど、でもでも!それに甘え続けるのは申し訳なくて、キッチン仕事だけじゃなくて雑務全般に手を出し始めた。
初めはそこまでしなくても良いと言われたけれど、私が頑なに譲らなかったから親父さんの『リンゴの好きにさせろ』の一声で雑務は私の仕事に変わった。
そんな事を思い返しながら、食堂へと入りキッチンへの扉を開けると。
「お、リンゴかい。」
「あれ?マルコ隊長!休憩ですか?」
「あァ、やっと書類纏め終わってねい。リンゴも珈琲飲むかい?」
サッチ隊長と長年背中を預け合うマルコ隊長にお願いしますと言えば、くァっと欠伸を一つしながら自分の分のブラックコーヒーと私の分のカフェオレを入れてくれた。
その傍らで、冷蔵庫から『リンゴちゃん専用!食べるべからず!byサッチ』と書かれた紙の貼られた皿を笑いながら取り出す。
今日はショートケーキ、それを半分に分けた。
「はい、マルコ隊長もどうぞ。」
「それ、お前ェのだろい。俺がサッチに怒られちまうよい。」
「いや、流石にホールケーキ丸々一つは食べ切れないんで、寧ろ手伝って下さい。」
毎回毎回私のおやつは、ホールケーキやらパウンドケーキ系一斤やら山盛りの焼き菓子やら生菓子やら。
いくら甘い物大好きお菓子大好きな私でも、正直食べ切れないので、毎回誰かしらと一緒に食べている。
大抵は羨ましそうに涎を垂らすエース隊長が付き合ってくれるのだが、今日はエース隊長率いる二番隊が特訓の日だし、ちょうどマルコ隊長いたし。
苦笑しながらお願いすれば、マルコ隊長も苦笑しながら『仕方ねェな』とおやつに付き合ってくれた。
そこからは暫くマルコ隊長から四番隊の提出書類やら在庫確認やら、色々仕事の話をしつつ雑談も交えて話していると、どうやらそろそろ夕飯の仕込みを始める時間になったようで。
四番隊の皆さんが食堂へとやって来た。
勿論、そこにはサッチ隊長もいる。
「今日のリンゴちゃんのおやつの友はマルコか。」
「あァ、有難く頂いてるよい。」
「おっさんにケーキ…ぷぷぷっ、似合わねェ…っっ!!」
「……そういやァ、四番隊の報告書がまだ出てねェようだが、期限早めてやろうかねい。」
「スイマセンデシタ。」
ハンッと鼻を鳴らすマルコ隊長と頭を下げるサッチ隊長のいつもの光景に、私はクスクスと笑っているとサッチ隊長もリーゼントを揺らして笑った。
それを見たマルコ隊長は『提出期限は守れよい』と言って、手をヒラヒラさせながら食堂を出てしまい、サッチ隊長と二人きりにされてしまった。
…ちょっとだけ、行かないで欲しかったなと思いつつ、空いたマグカップや皿を持って私も仕込みを手伝おうとキッチンに向かおうとすると、ひょいと洗い物をサッチ隊長に奪われる。
「え?サッチ隊長?」
「リンゴちゃんはまだ休んでて良いよー!」
「いやいやいや、充分休んだので流石に仕事しますよ。」
「良いから良いからー!」
眩しい笑顔で颯爽とキッチンへと向かうサッチ隊長の後ろ姿を呆然と見送っていると、甲板から戻ってきたエース隊長が『腹減ったァっ!』と摘み食いしようとキッチンへと忍び込んで、サッチ隊長に蹴り飛ばされている。
それに笑っていると、それに気付いたエース隊長がニカッと笑った。
「リンゴは仕込みしねェのか?」
「うん、なんかサッチ隊長にまだ休んでろって。」
「あァ、じゃあ今日のリンゴのおやつはショートケーキか。」
「…え?何で知ってんの?」
不思議に思って、年下の弟みたいなエース隊長に首を傾げていると、彼はテンガロンハットを直しながらにしししっと笑う。
ショートケーキはサッチの初恋の味だからな!島でサッチ隊長が食べたのは
私の作ったショートケーキだったと
ふと思い出していたら
ショートケーキの日は
サッチ隊長は恥ずかしくて
キッチンで私と並べなくなるのだと
エース隊長が笑いながら言ったfin.
アンケートで幸せなサッチを!とあったので幸せサッチ練習したら、サッチ夢が難しい…。