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□夜終
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夜終(意:一晩中)
「マジ、ですか。」
「…文句ならエースに言えよい、リンゴ。」
私の目の前には、不機嫌を包み隠さず口をへの字に結ぶマルコ隊長。
そして、我等がモビーは現在停泊中。
しかも今回は、親父さんの領海である平和なビーチが自慢の夏島のリゾート地で、ログが溜まるのが三日だから二泊三日のバカンスだ。
そんな夏島に着港したのは先日だが、その日の船番担当が一番隊。
そして、残念な事に私、リンゴは一番隊に所属していた。
でも、船番を交代すれば今日から明日の昼までフリーダムで。
恋人であるマルコ隊長とのラブラブ一泊バカンスを楽しみに、昨夜は物凄く真面目に船番をしたのだ。
…が、その努力が露と消えた。
「エースが島の偵察の報告書書いてねェ上に、明日出港じゃ今日は机から離れらんねェよい。」
そうなのだ。
エース隊長の野郎が、事前に偵察した時の報告書を綺麗に忘れて遊びに行ってしまったのだ。
私達がこの島に来たのは、あくまでも島や周りの海域の治安やらを島民に報告する為。
バカンスは、そのついででしかない。
そして、その肝心な報告書が無いのに気付いたのが今朝。
エース隊長の事務能力を考えると、到底出港まで間に合わない。
結果、マルコ隊長が渋々エース隊長の尻拭いを買って出たのだ。
…お陰で、私のロマンバケーションが一瞬で消え失せましたとさ。
めでたし、めでたし。
「…じゃなーいっ!」
一人で酒場で飲んでた私は、思わず叫んでしまった。
周りから『頭大丈夫か?』という風な哀れみの目を頂いたが、そんなの正直どうでもいい。
だって、だって…。
「本当に楽しみにしてのに…。」
昼間は一人で買い物して、夕方から女一人で酒場で飲む今の私。
本当なら、マルコ隊長と二人で手繋いでショッピングして。
二人で洒落たバーで乾杯して。
二人でちょっと贅沢して良い宿を取って。
そのまま、朝までラブラブ出来たのに。
それなのに、一人で酒場って…。
「マジ凹む。」
家族は皆して、不機嫌全開オーラを放出する私を見て逃げ出すか、さっさと陸の女買いに行くかだし。
正直、今の私には一人の夜なんて辛いだけだ。
「モビーに戻ろう。」
少なくともモビーにはマルコ隊長がいる。
…仕事中だから一緒にいれないけど。
さっさと勘定を済ませてモビーに戻ると、当たり前だが見張り台に不寝番がいるだけで、恐ろしく静まり返っていた。
さっきまでいた繁華街は騒がしかったから、それが余計に寂しくて、不寝番への挨拶もそこそこに自室へと一直線に戻る。
途中、マルコ隊長の部屋の前で立ち止まっちゃったけど、忙しいんだって自分に言い聞かせた私を、切実に誰か称賛しやがれ。
ボフッとベットにダイブして、暫くゴロゴロしてたけど。
やっぱり寂しさが強まるだけで。
「…もう寝てやる。」
そう呟いて布団を被ると、部屋のドアが勝手に開いた。
いや、勝手に開けられた。
…一応、レディーの部屋なんだが。
「リンゴ、戻ってたのかよい。」
驚いた様にマルコ隊長は言うけど、私の方が驚いてますよ。
「…何しに来たんですか。」
「機嫌悪ィな、おい。」
「当たり前。」
一人拗ねてると、マルコ隊長は苦笑しながら歩いて来て、そのまま私が横になっていたベッドに腰掛けた。
「休まねェで報告書さっさと終わらしたんだが、流石に今からリンゴと島は回れねェしよい。」
リンゴの部屋で寝ちまえば、一緒にいる気分になれるんじゃねェかと思って、な。
…俺だって楽しみにしてたんだい。
お前ェと二人で島回るの、楽しみにしてたんだよい。
今更そんな事言うな。
…許してしまうじゃないか。
「なァ、今から出港までリンゴと一緒にいて良いかねい?」
「…寧ろ一緒にいやがれ、馬鹿隊長。」
「酷ェな。」
クックッと喉を震わせながら笑うマルコ隊長に腕を伸ばして。
スッと自身へと軽く引き寄せると、何の抵抗も無くマルコ隊長は私に覆い被さった。
「今日一緒にいてやれなかった詫びだよい。」
俺を一晩中、リンゴにやるよい。「一晩じゃ足りない。」
「…可愛い事言うじゃねェかよい。」
「ちょ、この手何?!」
「先に煽ったのはリンゴだろい?」
「え、ちょっと待っ「待てねェ。」…あぅっ。」fin.