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□赤心
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年を取ると、どうやら臆病になるらしい。
馬鹿な事言ってんじゃねェと、そんな話をした若い衆を蹴り飛ばしたのは、何時の話だったか。
赤心(意:偽りのない心。まごころ)
『失うの恐ェから、手に入れる前に諦めちまうってとこじゃねェか?』サッチにその話をした時、そう返された。
んな事言ってたら、何も手に入らねェ、怖さ吹き飛ばすくらい強くなりゃァいい。
そう素直に返したら。
『あー…何っつーか、アレだ。欲しいもん欲しいって言えねェ、みたいな?』俺達ァ海賊だ。
欲しいもんなら、力ずくでも奪りゃァいいのに、何が言いてェんだ、こいつは。
無言のまま、そんな顔をサッチに向けると。
『…単純に傷付くのを怖がるって事だ。』年取ると怪我は治り難くなるみてェだしな。
そう苦笑しながらサッチは言った。
だが、不死鳥モデルの悪魔の実を食べた俺は、海楼石や覇気じゃねェ限り怪我なら直ぐ治る。
…勿論、限度は有るが。
だったら、そいつは俺には無縁な話だな。
…なんて、そう笑いながらサッチに言い返したもんだったが。
「なァなァ、リンゴっ!」
年が近いからか、エースとリンゴは仲が良い。
…当たり前だ。
俺とは違って、エースは若い。
一番隊の新入りの雑用であるリンゴが俺を慕う理由は、俺が一番隊隊長だからだ。
だから、俺もリンゴを部下として可愛がりゃァ良い。
_隊長と新入りの雑用
ただ、それだけの関係だ。
それ以上を欲したりしたら、関係が崩れちまう。
それは、嫌だ。
リンゴと気まずくなるのは、何があっても避けたい。
今まで通りに話したり出来なくなるなんて…。
「年取って臆病なっちまったか?マルコ。」
サッチが苦笑しながら、俺の隣に立った。
「怖くなんねェくらい、強くなればいいんだろ?」
「…なれそうにねェな。」
「欲しいもんは力ずくで奪うんじゃねェの?」
「んな事したら嫌われちまうだろい。」
「直ぐ怪我治るから、傷付くの怖くねェとか言ってなかったか?」
「流石にこっちの怪我は治せねェよい。」
親指でトンッと心臓の辺りを指すと、何処か安堵した様にサッチは笑った。
「あの言葉の意味、分かったよい。」
「そりゃァ良かった。…で、偽って終わんのか?そんな柔なタマだったか?てめェは。」
さっさと当たって砕けて、スッキリしちまえ。
サッチがニヤリと笑う。
それに対して苦笑を漏らすも、それもそうかと思い直し、同じ様な笑みを返した。
俺ァ海賊だ。
欲しいもんは欲しいと、欲に素直になれねェで、海賊なんぞやれるか。
臆病風など、何処吹く風か。
当たって砕けたとしても、破片が残りゃァ十分だ。
破片なっても、捕まえてやる。
_俺ァ海賊だ
そう自身を奮わせて、リンゴのいる方向に、微かに震える足を、一歩前へ。
この真心を、受けやがれ。「なァ、サッチ。」
「ん?どうした、エース。」
「マルコだけじゃねェよ。リンゴも臆病者なんだ。」
「え?リンゴちゃん?」
「…おっ。マルコとリンゴ、上手くいったみてェだ。」
「え?え?えぇェェっっ!?」fin.