SHoRT

□あえか
1ページ/1ページ






あえか

(意:か弱く、頼りない様)






戦闘中に、負傷した。


海賊なんだから、負傷するなんてのは当たり前。

しかも、軽いとは言い難いが重いとも言えない、つまり命に別状は無い程度の怪我だった。

それに対して皆は、『まだまだだな、リンゴ。』とか『そんなの怪我にも入らねェぞ。』とか軽口叩いてたけど。




…唯一人だけが、違った。





「っ…、リンゴっ!」


例の戦闘があった日から、マルコが夢にうなされる様になった。


あの日の戦闘で、私は丁度静脈の近くを怪我した。

その為、傷の割には出血だけが異様に酷く、まるで致命傷を負って死んでいくかの様にして、私は貧血で倒れたらしい。





『死ぬかと、思った…。』





輸血してあっさりと目覚めた私に、マルコは声を擦れさせて、震わせて、そう言った。






『リンゴが、死ぬかと、思った。』

『心臓が、止まるかと、思ったよい。』

『リンゴが死ぬと思った瞬間…俺も、心臓止まって、死ぬんじゃねェかと、思った。』






私は海賊よ。

いつ死んだっておかしくないわ。



そんなの、私よりも長く海賊やってるマルコの方が、よく知ってる筈なのに。





『自分が死ぬ覚悟は出来てんだがねい…リンゴが死ぬ覚悟は、全く出来てねェ、みたいだよい。』





私の死が、とても恐ろしいと。

私が居なくなる事が、恐いんだと。


あの日、そう呟きながら頭を抱えるマルコを見て、私は言葉を失った。





マルコは誰よりも強いと、私は思ってたんだ。

誰よりも頼りになって、誰よりも逞しいと、私は思ってたんだ。





だけど…。





「いく、な…リンゴ。いか、ないで、くれい、リンゴ…。」





『俺を置いて、逝かないでくれ。』





眉間に皺を深く刻んで、両目蓋から雫を零しながら、苦しそうに紡ぐマルコの寝言は、それとは全く正反対で。






愛する貴方は、とても儚い。







そんな弱さも愛しくて

貴方の為に死なない覚悟を

私は決めた







fin.



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ