SHoRT
□今だけ
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そっと眼鏡を、外して。
その瞳の傷に、口付けを。
立派な顎髭に、口付けを。
魅惑的な唇に、口付けを。
ギャンブル帰りのレイリーは、私のキスの嵐に柔らかく笑って、黙って応えて。
ベッドに疲れた体を沈ませた。
直ぐに聞こえてくる寝息に、冥王と呼ばれて恐れられる面影の見えない寝顔に。
私は微笑んで、彼が起きた時の為に軽食を用意してから仕事へと向かった。
ここ三ヶ月程、レイリーは私の家で寝泊まりしている。
シャボンディパークの従業員として働く私に、軽い感じに声を掛けてきた彼に、私が一目惚れした。
少しの期待を込めて、仕事が終わる時間を告げると、彼は見事に期待に応えて待っていてくれて。
胸が震えた私は、レイリーを連れてそのまま家へと帰った。
レイリーの呼ぶ『リンゴ。』という響きが大好きで、初めて私は『リンゴ』という自分の名前を愛しいと感じたものだ。
だけど、今は違う。
仕事が終わって、一直線で家に帰ると。
「おォ、早かったなリンゴ。」
良かった…。
『まだ』いてくれた。
「レイリー…今日もギャンブル?」
「…リンゴにそんな風に言われると、行きにくいな。」
苦笑しつつ、私を抱き締めるレイリーの年老いても尚逞しい胸板に、頬を寄せて擦り寄る。
「だって、レイリー。いつかはあのバーに帰っちゃうじゃない。」
一瞬強張るレイリーの腕に、心が軋む。
知ってるんだから。
女の直感は当たるの。
「そういえば…半年もシャッキーには会って無いな。」
甘く『リンゴ』と呼ぶ時とは違って。
『シャッキー』と呼ぶ声は、酷く愛おしさに満ち溢れている。
知ってるわ、レイリー。
貴方は海賊で、とても気紛れだって。
私には気紛れの、恋心。
シャクヤクさんには、本気の愛情。
レイリーの帰る場所は、何時だって彼女の元。
だから、これくらい許して?
二人共、私のほんの細やかな我が儘くらい、聞いてよ。
今だけ貴方が紡ぐ名前は
『リンゴ』にして
私だけの
レイリーで居て頂戴fin.