SHoRT

□勿忘草
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海賊だなんて、知らなかった。



海賊だったなんて、知らなかった。



あの頃、私は、何も知らなかった。






勿忘草






貴方と初めて逢ったのは、故郷の浜辺。

今でも、鮮明に覚えています。

海を眺めていた私に貴方は。

優しく微笑んで話し掛けてくれましたよね?

その笑顔に、一目惚れしたんです。

毎夕の様に、二人で語り合った浜辺は。

貴方の居なくなった数日後に、亡くなりました。

私の愛した故郷は、亡くなりました。

海賊に襲われて、亡くなりました。

生き残った私は、その恨みで海兵に志願しました。

毎日血反吐を吐いて。

毎日ボロボロに傷付いて。

兎に角、毎日毎日訓練して戦って。

終には、十年弱で准将まで登り詰めました。

それ以後、戦いの場は新世界へと。

毎日毎日、屈強な海賊達と戦いました。

そんなある日の休暇。

とある島で見掛けたのは、貴方。

何故、知らなかったのでしょう?

その刺青の意味に。

あの頃の私は、何故知らなかったのでしょう?

今なら、痛い程に知ってる証。

呆然と立ち尽くす私に。

貴方はまるで気付かない様にして。

さっさと通り過ぎて行きました。

悔しくて、悲しくて。

淋しくて、切なくて。

気付いた時には、貴方に刃を向けていて。

「待ちなさいっ!不死鳥マルコっっ!!」

そう叫んでいました。

貴方は背筋が凍り付きそうな程の眼差しで。

青い炎を纏ったのです。

なんて、綺麗なのでしょう。

そう思った時。

既に、勝負は、着いていました。

たかが准将の私が。

四皇の海賊団を相手に、勝てる筈も無く。

「その度胸は、認めてやるよい。」

記憶の貴方とは結び付かない、冷たい表情で。

私に、その鉤爪を食い込ませました。

「な、ん…で…?」

冷めたままで、貴方は私を見下ろします。

「…ん、で…あな、た…が…。」

『海賊なの?』

貴方は眉をひそめて。

次第に目を見開いていきました。

「お前ェ…リンゴかよい!?」

「な、ん…あな、た、が…かい、ぞ…な、の…?」

「チッ…喋んじゃねェよいっ!」

必死で私を抱き止める貴方。

けれども、私は直ぐにでも息を引き取ってしまいそうです。

ならば、せめてもの復讐に。

最高の愛を、込めて。






私を決して、忘れないで。






最期に見るのは

貴方の笑顔が良いと

そう言ったら

貴方はあの頃と同じ様に

優しく笑って

一筋の雫を零しました







fin.






勿忘草:私を忘れないで・真実の愛



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