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□愛情の裏返し
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愛情の裏返し「お前ェは何度言やァ分かるんだいっ!」
「いっ…っっ!!」
地味に痛そうな音をさせて、今日も一番隊隊長のマルコは、四番隊隊員のリンゴの頭を叩く。
因みに、この様な光景は今日『も』、だ。
始めは『うちの可愛い部下に何すんだっ!』と仲裁に入っていたサッチでさえ、日常茶飯事と化した二人のやり取りには傍観を決め込んでいる。
…というよりは、不器用過ぎる大人に同情している、というところだ。
「いっつもいっつも…マルコ隊長なんて嫌いですっ!」
いーっと子供染みた仕草を見せて、パタパタと逃げるという子供染みた行動をするリンゴが、サッチの思う『不器用過ぎる大人』で無い事は確実である。
つまり、その『不器用過ぎる大人』は必然的に、もう一方の…。
「また、やっちまったよい。」
「いい加減さ、学習しようぜ…マルコ。」
そう、一番隊隊長のマルコの方だ。
「優しくしようとは思ってんだいっ!」
「思うだけじゃなく実行しろっ!俺の部下苛めやがって!!」
「何時リンゴはお前ェのになったんだよい!サッチ!!」
「リンゴは、うちの隊員だろうがっ!」
「何で四番隊なんだよいっ!」
「知るかっっ!!」
こんなやり取りも日常茶飯事。
そして周りで一連を眺めていたエースは苦笑し、ビスタは溜め息で、ジョズに至っては無視である。
「っつか、何で優しい一言も掛けれねェの?!娼婦泣かせのマルコの名が泣くぜ?」
「変な異名付けんじゃねェよいっ!」
「本当の事じゃねェかっ!千人斬り伝説忘れたとは言わせねェぞっ!」
「…っっ!!そ、それリンゴに言うんじゃねェぞい!」
「んなの、とっくの昔に知ってんだろうがっ!」
「言ったの誰だよいっ!!」
「てめェが昔、宴で言ったんだろうがっ!!」
嘘だ…と顔を真っ青にしてうなだれるマルコに、サッチも同じくうなだれてしまう。
年端もいかない少年は、好きな子程苛めたくなるとはいうが、マルコはどう頑張って見ても少年とは言えない。
青年をとうに通り越した中年である。
今まで真面目に女と付き合って来なかったツケか、初めて本気で恋をした相手にどうしたら良いのか分からないらしい。
サッチも最初の内は(面白半分で)真剣に相談に乗っては、アドバイスもしてきたが、全く改善の方向に向かわない為、とうの昔に匙を投げ出した位だ。
…それだけ、どうしようも出来ないらしい。
「リンゴに嫌われたら、生きていけねェよい…。」
「既にさっき、嫌いっつってなかったか?」
「…よい。」
本気で床と共に沈んでいくマルコに、サッチは深く溜め息を吐いた。
「おやつでも食えば、リンゴも機嫌直るって、マルコ。」
「…サッチ。」
「リンゴの大好きなプリンでも作ってやるから、元気出せ。」
「…っ!サッチっっ!!」
まぁ、こんな安い友情物語も日常茶飯事で。
最早、誰も突っ込もうとすらしない。
「そんじゃ、マルコはリンゴにプリン渡して来い。」
「あァ。」
「ちゃんと『優しく』だぞ!」
「…あァ。」
「何だ、その間。」
「だ、だだだ、大丈夫だよい!」
そう焦って言うマルコに、無駄に面倒見の良いサッチは苦笑して、マルコに二人分のプリンを渡したのだった。
天邪鬼なおっさんの初恋が、上手く行きますように。「サッチ…マルコとリンゴの言い合いが聞こえるんだが。」
「何も言うな、ビスタ。俺は疲れた。」
「お前も苦労性だな。」
「もうマルコの初恋叶わなくていいから、早くあれから解放されたい。」
「ハハハ…。」fin.